権利関係は、宅建のなかでも“ドラマ”が一番多い分野。今日の題材は 平成30年・問4「時効の援用」。「同じ第三者なのに、片方は時効を使えて、片方は使えない」――その明暗を、物語でのぞいてみましょう。
「先輩、時効って、ズルくないですか?」
桜井くんが参考書をにらみながらこぼした。「借金しても、長いあいだ放っておけば消えちゃうんでしょう? じゃあ、その借金に関係してる人は、み〜んな『はい、時効! 消えた!』って言えるんですか?」
久保田さんは顔を上げた。「桜井、2つ勘違いしてるぞ。まず――時効は、放っておいても勝手には消えない」
「え? 期間がすぎたら自動で消えるんじゃ?」
「期間がすぎても、誰かが『時効だ』と主張して、はじめて効く。これを援用(えんよう)という。そして」――久保田さんは指を一本立てた――「援用できるのは、その権利が消えることに“正当な利益”を持つ人=直接、利益を受ける人だけだ」
「直接、利益を受ける人……?」
「よく似た2人を出そう。どっちが時効を援用できるか、当ててみろ」
「ある土地に、抵当権が2つ付いている。一番抵当は、もう何年も返済が止まっている古い借金。そして二番抵当が、佐々木さんだ」
「佐々木さん、こう言う。『一番抵当の借金が時効で消えれば、土地が競売されたとき、私の取り分が増える! だから私が、その時効を援用します!』――桜井、どう思う?」
桜井くんは少し考えた。「……得するんだから、できる、んじゃ?」
「できない」久保田さんは即答した。「佐々木さんは『配当が増える“かもしれない”』だけ。先順位の借金が消えても、それは間接的な得にすぎない。だから――後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できないんだ」
「うわ、ひっかけだ……」
「次だ。借金で首が回らないAさんが、財産を隠すように、土地を乙さんに安く譲った。Aの債権者は怒って、『それは財産隠しだ、土地を返せ』と、乙さんに詐害行為取消しを迫っている」
「ここで乙さんが、ふと気づく。『……待てよ。そもそもAへの貸金、もう時効なんじゃないか?』」
「桜井。乙さんは、その時効を援用できるか?」
「えっと……さっきの佐々木さんがダメだったから……乙さんもダメ?」
「できる」久保田さんは、にやりと笑った。「乙さんは、その貸金(被保全債権)が時効で消えれば、土地を取り返されずに済む。取消しを免れるという直接の利益がある。だから、詐害行為の受益者は、その被保全債権の消滅時効を援用できるんだ」
桜井くんは天を仰いだ。「同じ“第三者”なのに、佐々木さんはダメで、乙さんはOK……」
「そこが問4の急所だ。違いはただ一つ――」
・後順位抵当権者(間接の得) = ×
・詐害行為の受益者(直接の得)= ◯
「時効は、ほっといて転がり込んでくる魔法じゃない。“正当な利益”を持つ者が、自分の手で起動するものなんだよ」
桜井くんは大きくうなずき、手帳に書いた。
・援用できるのは、“直接”得をする人だけ。
この物語の“宅建ポイント”
- 時効は期間の経過だけでは効果が生じず、「援用」してはじめて権利の消滅を主張できる。
- 援用できるのは、権利の消滅について正当な利益を有する者=“直接”利益を受ける者。
- 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できない(配当が増えるのは間接的な利益にすぎない)。
- 詐害行為の受益者は、被保全債権の消滅時効を援用できる(取消しを免れるという直接の利益がある)。
この話のもとになった問題平成30年・問4(権利関係/時効の援用)。物語の“明暗”が、肢2(後順位抵当権者=援用×)と肢3(詐害行為の受益者=援用◯)にそのまま出題されています。
平成30年を解く →