「◯◯したら、あげる」――その一言が、れっきとした契約になることをご存じですか。今日の題材は 平成30年・問3。“もしも”に効力をぶら下げる、停止条件のお話です。
「先輩、僕、やる気が爆上がりなんです!」
桜井くんが拳を握りしめている。「叔父が言ってくれたんですよ。『宅建に合格したら、あの別荘をお前にやる』って。しかも書面で! これって……もう、僕のものですよね?」
久保田さんは苦笑した。「落ち着け。たしかにそれは停止条件付の贈与契約だ。『合格』という条件が成就したら効力が生じる、ちゃんとした契約だよ。……だが、“もう君のもの”ではない」
「えっ、なんでですか。約束したのに」
「停止条件は、条件が成就して初めて効力が生じる。今はまだ『合格』していないだろう? だから所有権はまだ叔父さんのものだ」
桜井くんは口をとがらせた。「じゃあ……たとえばですよ、叔父が気が変わって、合格前に別荘を燃やしちゃったら? 僕、泣き寝入りですか?」
「いや」と久保田さんは首を振った。「条件成就で利益を受けるはずの者の期待は、法律で守られている。叔父さんが、わざと別荘を壊すなどして君の利益を侵害したら――その後に君が合格すれば、叔父さんは損害賠償の責任を負う」
「おお、ちゃんと守られてる……!」
「ただし――ここが問3の急所だ」久保田さんは声を落とした。「君が合格して条件が成就しても、所有権は“合格した時”から君のものになる。約束した時点にさかのぼるわけではない。これを“さかのぼる”と勘違いさせるのが、ひっかけの定番だ」
「成就した時から……。過去に戻って僕のもの、にはならないんですね」
「そういうことだ。ついでに言えば、もし叔父さんが約束したその時点で意思能力を欠いていたら、その約束自体が無効だ。いくら君が合格しても、別荘は手に入らない」
桜井くんは深呼吸して、手帳を開いた。
・成就前に利益をわざと壊されたら、損害賠償。
・効力は“成就した時”から。約束の時にさかのぼらない。
「先輩……つまり、僕にできる一番のことは」
「そうだ」と久保田さんはにやりとした。「さっさと合格することだ」
この物語の“宅建ポイント”
- 「◯◯したら贈与」は停止条件付贈与契約として有効。条件成就まで効力は生じない。
- 条件の成否未定の間に、相手が条件成就で受けるはずの利益を不当に侵害すれば、損害賠償責任を負う(条件付権利の保護)。
- 停止条件が成就すると、効力は“成就した時”から生じる。約束の時点にさかのぼらない(特約があれば別)。
- 約束(意思表示)の時点で意思能力を欠いていれば、その契約は無効。
この話のもとになった問題平成30年・問3(権利関係/条件)。物語のポイントが各肢に出題され、肢3(“約束の時にさかのぼって取得する”とする点)が誤り=正解です。
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