「過去問」と聞くと身構えてしまう人へ。今日は、ある仲介会社の一場面を“物語”でのぞいてみましょう。題材は 平成30年・問30。報酬計算の、ちょっと意地悪で、でも一度ハマると忘れられない論点です。
「先輩、聞いてくださいよ! 権利金150万円ですよ、150万!」
入社半年の桜井くんが、契約書を片手に鼻息を荒くしている。今回まとめた話は、Bさん所有の物件をCさんに貸す定期借家。家賃は月10万円、それとは別に、返ってこないお金=権利金が150万円だ。
「これ、権利金を“売買代金”だとみなして報酬を計算できるんですよね? 150万円なら……ええと、報酬は16万5,000円! 家賃1か月分より、ずっと多いじゃないですか」
電卓を叩いてニヤつく桜井くんに、先輩の久保田さんは静かにコーヒーをすすった。
「桜井。その物件、何に使うの?」
「え? Cさん、ご家族で住むそうです。いい部屋ですよ」
「……それ、居住用だよな」
「はい、居住用です。それが何か?」
久保田さんはカップを置いた。
「権利金を売買代金とみなして報酬を計算していいのは、店舗や事務所――“居住用以外”のときだけなんだ。居住用の貸借では、その魔法は使えない」
桜井くんの、電卓を持つ手が止まる。
「じゃ、じゃあ150万円は……」
「報酬計算には使えない。居住用の貸借なら、原則は貸主・借主あわせて家賃1か月分――今回なら11万円(税込)が上限だ。依頼者の承諾がなければ、片方からは0.5か月分まで。150万円の権利金は、報酬の世界では“なかったこと”になるんだよ」
「そんなぁ……16万5,000円が、一瞬で消えた……」
がっくり肩を落とす桜井くん。だが、彼にはもう一つ“隠し玉”があった。
「で、でも先輩! 今回、僕、ポータルサイトにめちゃくちゃ広告を打ったんです。おかげで早く決まった。この広告費、Bさんに別で請求できますよね? 契約、決まったんだし」
久保田さんは、今度は少し笑った。
「桜井。その広告――Bさんから“出してくれ”って頼まれたか?」
「いえ、僕の判断で、勝手に……良かれと思って」
「だよな。依頼者から特別に依頼された広告でなければ、たとえ契約成立に役立っても、広告料を報酬と別に請求することはできない。『決まったんだから払ってよ』は通らないんだ」
「うぐっ……完璧だと思ったのに……」
「いいか桜井」と久保田さんは続けた。「報酬のルールは、派手な数字に飛びつく者ほど足をすくわれる。“権利金マジックは店舗だけ”“頼まれてない広告料は取れない”――この2つ、今日の悔しさと一緒に覚えておけ。一生忘れんから」
桜井くんは電卓を置き、手帳に大きくこう書いた。
・頼まれてない広告は、タダ働き。
窓の外では、彼が貼ったばかりの「ご成約御礼」が、夕日に光っていた。
この物語の“宅建ポイント”
- 権利金を売買代金とみなして報酬計算できるのは「居住用以外」(店舗・事務所等)だけ。居住用の貸借では使えない。
- 居住用の貸借の媒介報酬は、貸主・借主あわせて借賃の1か月分(+消費税)が上限。依頼者の承諾がなければ一方から0.5か月分まで。
- 依頼者の依頼に基づかない広告の料金は、契約成立に寄与しても報酬と別に請求できない。
この話のもとになった問題平成30年・問30(宅建業法/報酬)。物語の“落とし穴”が、肢2・肢3にそのまま出題されています。年度別演習でチャレンジしてみましょう。
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