不動産資格チャンネル
COLUMN / 宅建コラム

崩れた塀、責任は誰に
― 桜井くんと土地工作物責任

権利関係・不法行為2026年6月28日

建物の壁や塀が崩れて、通行人がケガをした。賠償するのは、住んでいる人? それとも持ち主?――土地工作物責任は、まず占有者、ダメなら所有者、という二段構え。しかも所有者の責任は逃げ場がない。今日の題材は 令和3年(10月)・問8です。

― 久保田塾、朝のニュースを見ながら ―

「先輩、大変です」桜井くんが駆け込んできた。「管理してる甲建物の壁が崩れて、通りかかったBさんがケガをしたって。これ、誰が賠償するんですか? 住んでるAさん? それとも持ち主?」

「落ち着け。これは土地工作物責任という典型論点だ。建物や塀みたいな“工作物”の欠陥(瑕疵)で人がケガをしたときの責任。順番があるんだ」

「順番、ですか」

「ああ。まず、その建物を“占有している人”――現に使っている人が、第一次的に責任を負う。今回でいえば、住んでいるAだ。Aが借りて住んでいるなら、占有者はAだな」

「じゃあAさんが必ず賠償、ってことですか?」

「いや、ここがポイント。占有者は、“損害が起きないよう必要な注意をしていた”と証明できれば、責任を免れる。ちゃんと点検して手を打っていたなら、Aは免責されうる。――逆に言うと、必要な注意をしていなければ、占有者Aは責任を負う

「あれ、ひっかけで見ました。『Aは必要な注意をしなかったとしても、責任を負わない』ってやつ……」

「それがバツだ。注意を怠った占有者は、ちゃんと責任を負う。『怠っても負わない』なんて逆さまだ。――これが令和3年10月問8の正解(誤りを選ぶ問題)だ」

「じゃあ、Aさんが『きちんと注意してました』と証明できたら、ケガをしたBさんは誰からも賠償されないんですか?」桜井くんが心配そうに聞く。

「そこで二段目だ。占有者が免責されたときは、今度は“所有者”が責任を負う。しかも所有者の責任は“無過失責任”――どんなに注意していても逃げられない

「無過失責任……。持ち主は『ちゃんとしてました』が通用しないんですか」

「通用しない。所有者は、必要な注意をしていたとしても責任を負う。最後は必ず誰かが被害者を救う――そういう設計だ。占有者は『注意した』で抜けられるが、所有者には抜け道がない

― 久保田さんのホワイトボード ―
工作物の瑕疵でケガ → 責任は二段構え
① 占有者(住んでる人): まず責任。ただし必要な注意をしたと証明すれば免責
② 所有者(持ち主): 占有者が免責されたら責任。無過失責任=抜け道なし

「先輩、ついでに。ケガをしたBさんが賠償を求められる“期限”ってあるんですか?」

「不法行為の損害賠償請求には時効がある。2つ覚えろ。1つは『損害と加害者を知った時から』の期間。今回はケガ=人身被害だから、知った時から5年だ(ふつうの物の損害なら3年だが、人の生命・身体の被害は5年に伸びる)」

「もう1つは?」

『不法行為の時から20年』。知っていようがいまいが、事故から20年経つと時効で消える。“知った時から5年”と“事故から20年”、どちらか来たら終わりだ」

「人身は5年、起算点は2つ。メモしときます」桜井くんは手帳を開いた。

― 桜井くんの手帳 ―
・工作物責任は二段構え。①占有者 → ②所有者。
・占有者 → 必要な注意をしたと証明すれば免責(注意を怠れば責任を負う)。
・所有者 → 無過失責任。注意していても責任を負う(逃げ場なし)。
・時効:人身損害は知った時から5年/不法行為の時から20年

この物語の“宅建ポイント”

  • 占有者の責任:工作物の設置・保存の瑕疵で他人に損害が生じたとき、占有者は第一次的に責任を負うが、損害発生の防止に必要な注意をしたときは免責される(民法717条1項)。「必要な注意をしなかったとしても責任を負わない」は誤り=令和3年10月問8の正解肢。
  • 所有者の責任:占有者が免責されるときは所有者が責任を負い、これは無過失責任。必要な注意をしていても責任を免れない(717条1項但書)。
  • 消滅時効(20年):不法行為による損害賠償請求権は、損害・加害者を知らなくても不法行為の時から20年で時効消滅(民法724条)。
  • 人身損害は5年:人の生命・身体を害する不法行為の損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から5年で時効消滅(民法724条の2。通常の3年が5年に伸長)。

この話のもとになった問題令和3年(10月)・問8(権利関係/不法行為・工作物責任)。「占有者は注意で抜けられるが、所有者は無過失で逃げられない」という二段構えが、肢の正誤につながります。正解(誤り)は「注意を怠った占有者が責任を負わない」とする肢。

令和3年(10月)を解く →
※本コラムは学習用の読み物です。条文・判例の解釈は改正等により変わることがあります。実務・受験にあたっては最新の法令・公式情報をご確認ください。