「だまされて売った」「おどされて売った」。同じ“取消し”でも、法律はこの2人を、まったく違う重さで扱います。今日の題材は 令和7年・問1。取消しと第三者保護の、いちばん大事な分かれ道です。
「先輩、ずっと混乱してるんです」桜井くんが言った。「Aが土地をBに売って、BがCに転売。後でAが『あの売買、取り消す!』となったとき、間に入ったCは守られるのか、っていう……」
「定番の悩みだ」久保田さんはうなずいた。「カギは、Aが“なぜ”取り消したかだ。だまされた(詐欺)のか、おどされた(強迫)のか。同じ取消しでも、第三者Cの運命が変わる」
「Aが、Bにだまされて土地を売ってしまった。これは取り消せる。だが――取消し前にあらわれた第三者Cが、“善意無過失”(だまされた事情を知らず、知らないことに落ち度もない)なら、AはCに取消しを対抗できない。つまりCが守られる」
「だまされたAが、負けちゃうんですか?」
「気の毒だが、“だまされる”という落ち度がAにもあると見るんだ。だから、何も知らずに取引に入ってきた善意無過失のCを優先する」
「ところが、おどされて(強迫されて)売った場合は違う。取消し前の第三者Cが善意無過失であっても、AはCに取消しを対抗できる。つまりAが勝ち、Cは守られない」
「ええっ、さっきと逆! なんでですか?」
「おどされた人には、落ち度がないからだ。刃物でも突きつけられて『売れ』と迫られた人を、『お前にも責任がある』とは言えないだろう。だから法律は、強迫の被害者を、詐欺より手厚く守る。第三者保護(善意無過失なら対抗できない)は、条文上“詐欺”にだけ用意されていて、強迫には無いんだ」
「だまされた人より、おどされた人のほうが守られる……。覚えやすい!」
「その通り。だからこの問題の『強迫でも、いずれの場合もCが所有権を主張できる』という肢は誤りだ。強迫なら、善意無過失のCでも、取消し前なら守られない」
「ちなみに、Cがちゃんと守られる“正解”の場面は?」
「契約が解除された場合だ。Aが解除する前でも後でも、Cは登記を備えればAに自分の所有権を主張できる。解除と取消しでも、扱いが違う。ここも整理しておけ」
桜井くんは手帳に書いた。
・強迫 → 善意無過失の第三者にも対抗できる(取消した人が勝つ)。
・合言葉:「だまされた人より、おどされた人が強い」。
この物語の“宅建ポイント”
- 詐欺による取消しは、取消し前の善意無過失の第三者に対抗できない(民法96条3項)。
- 強迫による取消しは、取消し前の善意無過失の第三者にも対抗できる(96条3項は“詐欺”に限られる。=令和7年問1の肢4が誤り)。
- 解除の場合、第三者は解除の前後を問わず、登記を備えれば所有者に所有権を主張できる(=問1の正解)。
- 前主(売買の前の所有者)は民法177条の“第三者”にあたらず、買主は登記がなくても前主に所有権を主張できる。
この話のもとになった問題令和7年・問1(権利関係/物権変動・取消しと第三者)。物語の分かれ道(強迫は善意無過失の第三者にも対抗できる)が、肢4の誤りに直結します。
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