権限もないのに「親の代理人です」と契約してしまった子。後に親が亡くなり、その子が親を相続したら――勝手に結んだ契約は、有効になる? 立場が入れ替わるとき、答えが変わる。今日の題材は 令和元年・問5です。
「先輩、これ頭がこんがらがるんですよ」桜井くんが判例集を指さした。「子Bが、親Aに無断で『Aの代理人です』と言ってCと契約した。いわゆる無権代理ですよね。本人Aが認めなければ、Aには効果が及ばない」
「そうだ。無権代理は、本人Aが追認すれば有効、追認拒絶すれば無効に確定する。A次第だ」
「で、問題はここから。その後、親Aが亡くなって、無断契約した子Bが親Aを相続したら……契約はどうなるんですか?」
「これが“無権代理人が本人を相続した”ケースだ。結論は――有効になる。Bは本人Aの立場を引き継ぐが、自分で勝手にやった契約を、今さら『本人として無効です』とは言えない。信義則上、追認を拒めないんだ」
「あ、たしかに。自分でやっといて『やっぱりナシで』は、虫が良すぎますもんね」
「その通り。無権代理人が本人を相続したら、追認拒絶できず、契約は有効。これが基本形だ」
「じゃあ逆に、無権代理した子Bのほうが先に亡くなって、本人の親Aがその子Bを相続したら?」
「立場が逆だな。“本人が無権代理人を相続した”ケースは、当然には有効にならない。本人Aは、もともと『認めない(追認拒絶)』を選べる立場だった。相続でその立場が消えるわけじゃないから、Aは追認を拒める。Bの無権代理の責任は引き継ぐとしてもな」
「同じ“相続”でも、どっちがどっちを相続したかで、ぜんぶ変わるんですね」
「そこが急所だ。無権代理人が本人を継ぐ=有効/本人が無権代理人を継ぐ=当然には有効にならない。左右で結論が逆になる」
① 無権代理人B が 本人A を相続: 追認拒絶できず 有効
② 本人A が 無権代理人B を相続: 当然には有効にならない(本人は拒める)
「先輩、この問題、もう一段ひねりがあって」桜井くんが続ける。「親Aが生きているうちに、いったん『追認拒絶』をしていた。その後にAが亡くなって、無権代理した子BがAを相続した場合は?」
「いい着眼だ。判例はこう言う。本人がいったん追認拒絶をすると、その時点で“無効”に確定する。確定した後は、本人であっても、もう追認して有効にはできない」
「えっ、本人なのに、もう有効にできないんですか」
「できない。一度『無効』で固まったものは、ひっくり返らない。だから、追認拒絶した後にBがAを相続しても、契約は有効にならない。さっきの①(拒絶していないケース)とは結論が違う」
「ということは……『追認拒絶の前に相続した場合(→有効)』と『後に相続した場合(→有効にならない)』では、効果が違う」
「そこだ。『拒絶の前でも後でも効果は同じ』はバツ。前と後で結論が分かれる。――これが令和元年問5の正解(誤りを選ぶ問題)だ」
「拒絶のタイミングで運命が変わる……。整理しないと事故りますね」桜井くんは手帳を開いた。
・本人が無権代理人を相続 → 当然には有効にならない(本人は拒める立場のまま)。
・本人が追認拒絶した後は、本人でももう有効にできない(無効で確定)。
・だから拒絶の前に相続(有効)と後に相続(有効にならない)で効果は違う(←正解の急所)。
・追認は契約時に遡及(ただし第三者の権利は害せない)。
この物語の“宅建ポイント”
- 無権代理人が本人を相続:無権代理人が本人を相続したときは、信義則上、追認を拒絶できず、無権代理行為は有効となる(判例)。
- 本人が無権代理人を相続:本人が無権代理人を相続しても、無権代理行為は相続により当然には有効とならない(判例)。同じ相続でも、どちらがどちらを相続したかで結論が逆になる。
- 追認拒絶後の相続:本人が追認を拒絶すると無効が確定し、その後は本人でも追認できない。よって追認拒絶の前に相続した場合と後に相続した場合とで法律効果は異なる。「同じ」とする肢は誤り=令和元年問5の正解。
- 追認の遡及効:無権代理行為の追認は、別段の意思表示がなければ契約の時にさかのぼって効力を生じるが、第三者の権利を害することはできない(民法116条)。
この話のもとになった問題令和元年・問5(権利関係/無権代理と相続)。「誰が誰を相続したか」「追認拒絶の前か後か」で結論が変わる、という物語の整理が、そのまま肢の正誤になります。正解(誤り)は、拒絶の前後で効果が同じとした肢。
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