農地の売買は、許可が下りるまで所有権が動きません。その間に他の人に売られたら――? 「じゃあ待つしかない」と言いかけた桜井くんに、久保田さんが一手を教えます。今日の題材は 令和6年・問21。
「先輩、例の農地の件、お客さんが不安がってるんです」
「ああ、農地のまま買う話だったな。農地を農地のまま買うなら、農業委員会の3条許可だ」
「そうなんですけど、許可が下りるまで時間がかかるじゃないですか。お客さんが『その間に売主が他の人に売っちゃったらどうなるの? こっちは何も押さえられないの?』って」
「で、なんて答えた?」
「『農地は許可がないと権利が動きませんから、登記も何もできません。待つしかないです』って言いかけて……お客さんの顔が曇ったのを見て、止まりました」
「そこで止まったのは偉い。押さえる手はある」
「え、あるんですか?」
「仮登記だ。『3条の許可があったときに所有権が移転する』という停止条件付きの売買契約を結んで、それを原因に所有権移転の仮登記を入れる」
「でも先輩、その仮登記をするのにも、農地法の許可が要るんじゃ……」
「要らない」久保田さんは首を振った。「ここが今日の急所だ。仮登記の段階では、まだ権利移転の効果が生じていない。所有権はまだ1ミリも動いていないんだ。動いていないものに、農地法が口を出す理由がない。だから仮登記の申請に農業委員会の許可は不要だ」
「あ……。許可が要るのは『実際に権利が動くとき』だから、動いてない仮登記には要らない、と」
「そういうことだ。順位だけ先に押さえておいて、許可が下りたら本登記。お客さんは安心して許可を待てる」
「危なかった……。『待つしかないです』で終わってたら、お客さんを守れないどころか、他の人に先を越されてたかもしれない」
「『できません』と言う前に、できる手を探す。それが仲介の仕事だ」
「先輩、ついでにこの問題の他の肢も教えてください」
「よし。まず5条許可――転用目的で農地を買うやつだな。あの許可申請書は、原則として当事者が連署して出す。売主と買主、二人の名前で申請するんだ」
「売る側と買う側、両方の意思を確認するためですね」
「そうだ。あとは農地の賃貸借が2つ。期間の定めがある農地の賃貸借は、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をしないと、同じ条件で更新したものとみなされる(法定更新)。それと、賃貸借の解除・解約の申入れ・合意解約・更新拒絶の通知には、原則として知事の許可が必要だ」
「合意解約にも許可? お互い納得してるのに?」
「農地を耕している人を守るためだ。農地の賃貸借は、そう簡単には切れない――そう覚えておけ。この3つはどれも正しい肢だった」
「ってことは、“誤っているもの”は……」
「『仮登記にも許可が必要』とした肢。今日の話そのものだ」
3条(農地→農地の権利移動)… 農業委員会の許可
5条(転用目的の権利移動)… 知事等の許可/申請書は当事者が連署
停止条件付売買の所有権移転仮登記 … 許可は不要(まだ権利が動いていない)
農地の賃貸借は切れにくい
法定更新(17条)… 満了の1年前〜6か月前に更新拒絶の通知をしないと更新
解約制限(18条)… 解除・解約の申入れ・合意解約・更新拒絶に 知事の許可
桜井くんは手帳を開いた。
・理由:仮登記の段階では権利が移転していないから。
・許可待ちの間も、仮登記で順位を押さえられる。「待つしかない」と言わない。
・5条の許可申請書は当事者が連署。農地の賃貸借は法定更新+解約に知事の許可。
この物語の“宅建ポイント”
- 仮登記と許可:「法3条の許可があったときに所有権が移転する」旨の停止条件付売買契約を原因とする所有権移転の仮登記の申請には、農地法の許可は不要(先例・昭32民甲793号)。仮登記の段階では権利移転の効果が生じないため。「許可が必要」は誤り。
- 5条許可申請の連署:法5条1項の許可申請書は、民事調停法による調停が成立した場合など一定の場合を除き、当事者が連署して提出する。
- 賃貸借の法定更新(17条):期間の定めのある農地の賃貸借は、一定の場合を除き、期間満了の1年前から6か月前までに更新拒絶の通知をしないと、従前と同一条件で更新したものとみなされる。
- 賃貸借の解約制限(18条1項):農事調停による場合など一定の場合を除き、解除・解約の申入れ・合意解約・更新拒絶の通知には知事の許可が必要。
- 令和6年・問21は「誤っているもの」を選ぶ問題。誤り=「仮登記の申請にも農業委員会の許可が必要」とした肢です。
この話のもとになった問題令和6年・問21(法令上の制限/農地法)。「権利が動いていないなら、許可は要らない」――この一本の筋が、そのまま正解につながります。
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