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COLUMN / 宅建コラム

だまし取られても、“奪われて”はいない
― 桜井くんと占有回収の訴え

権利関係・占有2026年6月28日

占有を“取り戻す”裁判――占有回収の訴え。でも、これが使えるのは「奪われた」ときだけ。だまされて自分で渡しても、相手を締め出しても、それは「奪われた」には入らない。今日の題材は 令和6年・問7。「侵奪」という言葉の正体を見ていきます。

― 久保田塾、相談デスクにて ―

「先輩、大家さんのAさんが青ざめて来たんですよ」桜井くんが声をひそめた。「貸してる甲建物に、Cっていう怪しい男が入り込んでて」

「ほう。どういう経緯だ?」

「入居者のBさんがだまされたみたいで。CがBに『この建物、Aさんから買い取ったんだ。もう俺の物だから出て行ってくれ』って嘘をついて。それを信じたBさんが、自分で鍵を渡して、Cに明け渡しちゃったんです」

「なるほど。それでAさんは『Cを追い出したい』と」

「はい。占有回収の訴えっていうのがあるって聞いたんで、それでCに『建物を返せ』ってできますよね?」

「桜井。残念だが、この場合、占有回収の訴えは使えない

「えっ。だまし取られたのに?」

「ここが今日の急所だ。占有回収の訴えが使えるのは、占有を“奪われた(侵奪された)”ときだけなんだ。条文の言葉で『侵奪』という」

「しんだつ……。奪い取られる、ってことですよね。だまされたのも奪われたようなもんじゃ?」

「気持ちは分かる。だがな、『侵奪』は“本人の意思に反して、力ずくで奪い取られる”ことを指す。今回のBさんは、だまされたとはいえ自分の意思で鍵を渡した。手放し方が“任意”なんだ。これは侵奪にあたらない」

「だまされて渡した=だまされたけど、渡したのは自分……」

「そうだ。『だまされて自分で手放した』のと『奪い取られた』のは、法律上は別物。だから占有回収の訴えはできない。――Bさんが救われないわけじゃないぞ。詐欺による意思表示として取り消す、別の道はある。ただ“占有回収の訴え”という箱には入らない、という話だ」

― 久保田さんのホワイトボード ―
占有回収の訴え = 「侵奪された」ときだけ使える
侵奪にあたる: 意思に反して力ずくで奪い取られた
侵奪にあたらない: だまされて自分で渡した/自分で締め出しただけ

「ちなみに先輩、逆のパターンも気になって。もしBさんが居座って、入口を閉ざしてAさんの立入りを拒んだら? Aさんは『間接占有を奪われた』として、Bに占有回収の訴えができますか?」

「お、いい着眼点だ。だがそれもできない。締め出すのは『自分が占有を続けている』だけで、相手の占有を積極的に“奪い取った”わけじゃないからだ」

「『入れない』のと『奪う』のは違う、と」

「その通り。立入りを拒む(占有を続ける)ことと、相手の占有を奪うことは別物。だから侵奪にあたらず、やっぱり占有回収の訴えはできない。――どっちのパターンも、結局『侵奪か?』の一点で決まる」

― ついでに、相続と占有の話 ―

「先輩、関連でもう2つ。もし入居者のBさんが亡くなって、息子のDさんが1人で相続したら、Dさんは相続を知るまでは占有を引き継がないんですか?」

「いや、相続人は、知っていようがいまいが、被相続人の占有を当然に引き継ぐ。『知るまで承継しない』は誤りだ。占有は相続でそのまま受け継がれる」

「じゃあ、もし大家Aさんも入居者Bさんも両方亡くなったら、賃貸借契約は当然に終了しますか?」

「これも違う。賃貸借は当事者の死亡では当然には終わらない。貸主の地位も借主の地位も、それぞれ相続される。当然終了する、は誤りだ」

「死んでも契約は残って、相続人に引き継がれる……。占有も契約も“受け継がれる”が原則なんですね」

「よくまとまった。今日の4つ、全部つながってるだろう」桜井くんは大きくうなずいて手帳を開いた。

― 桜井くんの手帳 ―
・占有回収の訴え → 「侵奪された」ときだけ使える。
・だまされて自分で渡した → 侵奪じゃない(任意に手放した)。占有回収×。
・締め出して立入りを拒んだだけ → 侵奪じゃない(奪ってはいない)。占有回収×。
・相続 → 占有は当然に承継(知らなくても引き継ぐ)。賃貸借も死亡で当然終了しない。

この物語の“宅建ポイント”

  • 占有回収の訴え=侵奪が要件:占有を「奪われた(侵奪された)」場合にのみ認められる(民法200条)。だまされて任意に占有を移転したときは侵奪にあたらず、訴えはできない(令和6年問7の正解肢)。
  • 締め出しは侵奪でない:入口を閉ざして立入りを拒むのは「自分が占有を続ける」だけで、相手の占有を奪ったわけではない。よって占有回収の訴えはできない。
  • 占有の相続:相続人は相続開始を知っているか否かに関係なく、被相続人の占有を当然に承継する(民法896条)。
  • 賃貸借と死亡:賃貸借は当事者の死亡で当然には終了せず、貸主・借主の地位は相続される。

この話のもとになった問題令和6年・問7(権利関係/占有)。「侵奪か否か」という物語の一点が、占有回収に関する肢の正誤をそのまま決めます。正解は「だまされて任意に渡したときは占有回収の訴えができない」の肢。

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※本コラムは学習用の読み物です。条文・判例の解釈は改正等により変わることがあります。実務・受験にあたっては最新の法令・公式情報をご確認ください。