相続は、登場人物の“立場”が一瞬で入れ替わる、権利関係きってのドラマ。今日の題材は 平成30年・問10。立場が反転する2つの場面を、のぞいてみましょう。
「先輩、相続って、覚えること多すぎませんか……」
桜井くんがぐったりしている。久保田さんは「丸暗記しようとするからだ」と笑った。「2つだけ、“立場が入れ替わる”話を見せてやる。これでコツがつかめる」
「ある男・甲が、父親の土地を、父に無断で『自分のものです』と言って他人に売ってしまった。これは、権限もないのに本人になりすました――無権代理だ。本来なら、本人(父)が認めなければ無効。買った人はかわいそうだが、土地は手に入らない……はずだった」
「はずだった、って……何かあるんですか?」
「ある。その後、父が亡くなり、甲が“ひとりだけ”で父を相続した。さあ、どうなる?」
桜井くんは考え込んだ。「えーと……甲が、土地の持ち主になった……?」
「そうだ。甲は“本人そのもの”になった。すると、甲が本人として自分で売ったのと同じ扱いになり、あの売買は有効になる。買った人は、晴れて土地を手に入れられるんだ」
「嘘が……本当になった……!」桜井くんは目を丸くした。
「次だ。兄弟が、実家を相続して共有になった。長男の持分は過半数。だが、実家に現に住んでいるのは次男だ」
「長男がこう言う。『俺の持分のほうが多いんだ。お前、出ていけ!』――桜井、これは通るか?」
「持分が多いほうが強い……から、追い出せる?」
「通らない」久保田さんは即答した。「共有者は、それぞれ共有物の“全部”を使うことができる。だから、たとえ過半数の持分を持っていても、現に住んでいる他の共有者に対して、“当然には”明渡しを請求できない。出ていけと言うなら、それなりの理由をきちんと主張・立証しないといけないんだ」
「多数決で追い出せる、わけじゃないんですね……」
「相続も共有も、“数”や“見た目”じゃなく、『その結論で、誰が不当に損をするか』で考える。場面1は買主を救い、場面2は住んでいる人を守る。筋が通っているだろう?」
桜井くんは大きくうなずき、手帳に書いた。
・共有は、各自が全部を使える。
・過半数の持分でも、住んでる共有者を“当然には”追い出せない。
この物語の“宅建ポイント”
- 無権代理人が本人を単独相続すると、本人が自ら行為したのと同様になり、無権代理行為は当然に有効となる。
- 過半数の持分を持つ共有者でも、現に共有物を占有する他の共有者に“当然には”明渡しを請求できない(共有者は各自が共有物の全部を使用できる)。=平成30年問10の正解(肢4が誤り)。
- (肢2)遺産分割前に勝手に単独登記した相続人からの第三取得者に対し、他の相続人は自己の法定相続分を登記なく対抗できる。
- (肢3)連帯債務者の一人が死亡すると、相続人は債務を相続分に応じて分割承継し、各自の範囲で連帯債務者となる。
この話のもとになった問題平成30年・問10(権利関係/相続)。場面2(過半数の持分でも当然には明渡しを請求できない)が、肢4の誤り=正解です。
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