「自分のものでない物を、売る」――詐欺みたいですが、法律ではちゃんと成り立ちます。今日の題材は 令和7年・問6。他人物売買の、ちょっと不思議な“時間差”のお話です。
「先輩、ヘンなこと聞いていいですか。持ってない土地って、売れるんですか?」
久保田さんは涼しい顔で答えた。「売れる。これを他人物売買という。他人の物を売る契約も、契約自体は有効なんだ」
「えっ、勝手に売っていいの?」
「いいわけじゃない。だが“契約は有効”だ。売主は『その物を手に入れて、買主に渡す義務』を負う。たとえばこうだ」――久保田さんは図を描いた。「Bが、Aの土地を、Aに無断で『これは私のだ』とCに売った。その後、Bは、ちゃんとAからその土地を買い取った」
「お、つじつまが合った。じゃあCは、晴れて持ち主ですね! ……あれ、いつから?」
「そこが問6の急所だ」久保田さんは指を立てた。「Bが他人物を売った時点では、Bは無権利者。だからCはまだ所有権を得ていない。後でBがAから所有権を手に入れた瞬間、それがCに移る。――ただし、『Bから買った時点』にさかのぼって取得するわけではない」
「さかのぼらない……。Bが手に入れた“その時から”、なんですね」
「そうだ。『契約の時に遡って所有者だった』とすると、その間の権利関係がぐちゃぐちゃになるからな。所有権が動くのは、売主が所有権を手に入れた時から。これがこの肢の正解ポイントだ」
桜井くんは納得した様子だったが、久保田さんはもう一つ付け加えた。
「ついでに、おもしろい話を。土地を売るとき、“立木(りゅうぼく)”だけ自分のものとして残すこともできる。だが、その留保を第三者に主張するには、登記か――明認方法が要る」
「めいにん、ほうほう?」
「木の幹の皮を削って、墨で持ち主の名前を書く。昔ながらの“この木は私のものです”という公示方法だ。これを怠ると、土地ごと買った人に『その木は自分のだ』と言えなくなる」
「木に、名前を書く……宅建、奥が深い……」桜井くんは手帳を開いた。
・売主が後で所有権を取得 → その時から買主に移る(遡らない)。
・立木だけ残すなら、登記か“明認方法”が必要。
この物語の“宅建ポイント”
- 他人物売買も契約は有効。売主は目的物を取得して買主に移転する義務を負う。
- 売主が後から所有権を取得すると、その時点で買主に所有権が移る。“買った時点に遡って”取得するわけではない(=令和7年問6の肢1が誤り=正解)。
- 本人に帰責性のない虚偽の登記では、94条2項の類推適用による第三者保護は認められない。
- 立木の所有権を留保しても、登記又は明認方法を備えなければ、土地ごと買い受けた第三者に対抗できない。
この話のもとになった問題令和7年・問6(権利関係/物権変動)。物語のポイント(他人物売買は遡って取得しない)が、肢1の誤り=正解です。
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