大家の承諾を得た、適法な“又貸し”(転貸)。住んでいるのは又借りの人。では、大家と借主が「もう契約をやめよう」と握手したら、又借りの人は追い出される?――原則、守られます。でも、ある事情があると話は変わる。今日の題材は 令和2年(12月)・問6です。
「先輩、登場人物が3人いてこんがらがってきました」桜井くんが図を描いた。「大家Aが、Bに甲建物を貸した。BはAの承諾を得て、Cに又貸し(転貸)。いま住んでるのはCさんです」
「承諾を得た適法な転貸だな。よし。じゃあ核心の質問だ。AとBが『この賃貸借、もうやめよう』と合意で解除したら、住んでいるCはどうなる?」
「えっ、ABが大もとの契約を解除したら、その上に乗ってるCの又借りも倒れて……Cさん追い出し?」
「それだとCが気の毒すぎるだろう。承諾までもらって、ちゃんと住んでるのに。だから法律はこう守る。賃貸借の“合意解除”は、原則として転借人Cに対抗できない。ABが勝手に手を切っても、Cの又借りは守られるんだ」
「よかった……。AとBの都合で、Cさんを巻き込めない、と」
「そうだ。“合意解除でCを追い出す”は、原則できない。ここまではいいな」
「でも先輩、さっき『ある事情があると変わる』って」
「そこが急所だ。合意解除した“その時”に、実はBが家賃を滞納していて、Aが債務不履行を理由に解除できる状態だったら?」
「あ……。それって、合意解除なんてしなくても、Aはどのみち解除できた状況ですよね」
「その通り。解除の当時、AがBの債務不履行による解除権を持っていたなら、AはそれをもってCに対抗できる。つまりCも明け渡すことになる。形は合意解除でも、中身は『どうせ切れた契約』だから、Cを守る理由がないんだ」
「なるほど。『合意解除は“事情を問わず”Cに対抗できない』はバツ、なんですね。債務不履行で切れる状態なら対抗できる」
「そこが令和2年12月問6の正解(誤りを選ぶ問題)だ。『対抗することはできない』と言い切ると、この例外を見落とすことになる」
ABの合意解除 → 原則 Cに対抗できない(Cは守られる)
ただし、解除当時 Bの債務不履行による解除権があれば → Cに対抗できる
「先輩、ついでにCさんの“義務”の話も。Cは大家Aに、直接、家賃を払う関係になるんですか?」
「なる。転借人Cは、Bの債務の範囲を限度に、大家Aへ直接、賃料などを履行する義務を負う。Aは『Bが払わないならC、お前が払え』と直接言える」
「じゃあ、CがBに何か月分も前払いしちゃってたら? 『もう払った』ってAに言えますか?」
「言えない。Bへの賃料の前払いをもって、Aには対抗できない。Aから請求されたら、前払い済みでもAに払わなきゃいけない。二重払いのリスクがあるから、転借人は前払いに注意、だ」
「Cさんは守られる場面もあれば、直接払えと言われる場面もある……。立場が両面なんですね」桜井くんは手帳を開いた。
・ABの合意解除は原則Cに対抗できない(Cを巻き込めない)。
・ただし解除当時、Bの債務不履行による解除権があれば対抗できる(Cも明渡し)。
・Cは大家Aへ直接の履行義務(Bの債務の範囲が限度)。Bへの前払いはAに対抗できない。
この物語の“宅建ポイント”
- 合意解除と転借人:賃貸借の合意解除は原則として転借人に対抗できないが、解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、これをもって転借人に対抗できる(民法613条3項ただし書)。「対抗することはできない」と言い切る肢は誤り=令和2年12月問6の正解。
- 転借人の直接履行義務:転借人は賃借人の債務の範囲を限度として賃貸人に直接履行する義務を負い、賃料の前払いをもって賃貸人に対抗できない(613条1項)。
- 用法違反の損害賠償:転借人の用法違反による損害賠償は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求する(600条1項)。
- 賃貸人たる地位の移転:賃貸物が譲渡されると、特段の合意がない限り賃貸人たる地位は譲受人に移転する(605条の2)。
この話のもとになった問題令和2年(12月)・問6(権利関係/転貸借)。「合意解除は原則Cに対抗できない、でも債務不履行解除権があれば対抗できる」という物語の例外が、そのまま正誤の決め手になります。正解(誤り)は、その例外を見落とした肢。
令和2年(12月)を解く →