不動産の実務ツール / FOR PROS
入居日・退去日を入れて、傷んだ箇所を選ぶだけ。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の経過年数(耐用年数)に沿って、貸主・借主それぞれの負担額と、敷金の返還額/追加請求額を自動計算します。クロスは6年、流し台は5年——といった減価が効くので、長く住んだ人ほど負担は小さくなります。単価は相場の目安が初期値で入るので、見積書がなくてもおおよその金額がわかります。そのまま印刷して精算書としても渡せます。
| 部位・項目 | 数量 | 単位 | 単価 | 補修費用 | 耐用年数 | 経過年数 | 負担 | 借主負担率 | 借主負担額 | 貸主負担額 | 備考 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 合計 | 0 | 0 | 0 | |||||||||
「退去したら敷金がほとんど返ってこなかった」——賃貸のトラブルで最も多いのがこの原状回復です。ルール自体はそれほど複雑ではないので、貸主・借主・仲介のいずれの立場でも、押さえておくと揉めずに済みます。
ここが最大の誤解です。ガイドラインは原状回復を、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することと定義しています。つまり「新品同様に戻す」義務ではありません。
普通に住んでいれば当然に生じる汚れや傷み——日照によるクロスの変色、家具の設置跡、テレビ・冷蔵庫の裏の黒ずみ(電気ヤケ)、画鋲やピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度のもの)——は、賃料に織り込まれているという考え方から貸主負担です。逆に、タバコのヤニ・臭い、ペットによる傷や臭い、結露を放置して発生させたカビ、飲みこぼしのシミ、引越作業でつけた傷などは借主負担になります。
借主に負担義務がある場合でも、全額を負担するわけではありません。クロスや設備には価値の減少(減価)があるので、経過年数に応じて負担割合を減らします。ガイドラインは、耐用年数の経過時点で残存価値が1円となるような直線を描いて負担割合を算定する、としています。
ただし、耐用年数を超えていても負担がゼロになるとは限りません。ガイドラインは、故意・過失により毀損させた場合、補修工事に伴う費用(施工の手間賃など)は借主が負担すべき場合があるとしています。例として、経過年数を超えたクロスにあえて落書きをしたようなケースが挙げられています。
| 項目 | 耐用年数 |
|---|---|
| 流し台 | 5年 |
| 壁・天井のクロス(壁紙) | 6年 |
| カーペット、クッションフロア | 6年 |
| 畳床 | 6年 |
| エアコン等の冷房用・暖房用機器、ガス機器、インターホン | 6年 |
| 造作家具(書棚・戸棚等)、その他の器具・備品 | 8年 |
| 便器・洗面台等の給排水・衛生設備、主として金属製の器具・備品 | 15年 |
| ユニットバス、浴槽、下駄箱、玄関ドア、窓枠、フローリング全体の張替え等 | 建物の耐用年数 |
建物の法定耐用年数(住宅用)は、木造22年/軽量鉄骨造19年・27年(骨格材の厚みによる)/重量鉄骨造34年/鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造47年です。
毀損した箇所だけを直せば済むのか、部屋全体なのか。ガイドラインは補修の単位も示しています。クロスは㎡単位が原則ですが、色や模様を合わせる必要から、毀損箇所を含む一面までを借主負担とすることは可能とされています。カーペット・クッションフロアは毀損部分を含む一部屋単位、フローリングは㎡単位、畳は一枚単位が基本です。
本ツールは、項目を選ぶと下記の単価が初期値として入ります。水準は「最安値ではなく、管理会社を通して実際に精算書に載る通常の額」に合わせています(材工・税別)。自分で個人業者に手配すればもっと安く済むことが多い一方、退去精算で提示されるのはこの水準です。実際の金額は地域・業者・グレード・数量で変わるので、見積書がお手元にあれば必ず実額に打ち替えてください(単価欄は手入力で上書きできます)。
| 項目 | 単価の目安 |
|---|---|
| 壁クロス(毀損箇所を含む一面) ※面積によらず最低施工費20,000〜30,000円がかかるため | 25,000円/面 |
| 壁クロス(㎡単位・量産品) | 1,200円/㎡ |
| 天井クロス(㎡単位) | 1,300円/㎡ |
| タバコのヤニ・臭いによるクロス張替え(1R〜1K全体) | 80,000円/式 |
| クッションフロア(一部屋・6畳) | 50,000円/室 |
| カーペット(一部屋・6畳) | 55,000円/室 |
| 畳表の張替え(表替え) | 7,000円/枚 |
| 畳床の新調・交換 | 18,000円/枚 |
| フローリング(部分補修) | 25,000円/㎡ |
| フローリング(全体張替え・複合フローリング) | 12,000円/㎡ |
| 襖紙の張替え | 6,000円/枚 |
| 障子紙の張替え | 4,000円/枚 |
| 襖・障子等の建具(本体の交換) | 20,000円/枚 |
| 柱(キズ・穴等の補修) | 30,000円/本 |
| 鍵の交換(シリンダー交換) | 20,000円/式 |
| ハウスクリーニング(1R〜1K) ※管理会社の指定業者による退去時清掃を想定。下の解説を参照 | 35,000円/式 |
| エアコン(6〜12畳用・本体+交換工事) | 90,000円/台 |
| ガス機器(ビルトインコンロ・本体+工事) | 100,000円/台 |
| インターホン(テレビドアホン・本体+工事) | 40,000円/台 |
| 流し台 | 150,000円/式 |
| 便器・洗面台等の給排水・衛生設備 | 150,000円/式 |
| 玄関ドア・窓枠/ユニットバス・浴槽・下駄箱 | 幅が大きいため空欄 |
根拠のレンジ:クロス㎡単価は量産品900〜1,300円(オーナー向け業者の実売1,088円/m=約1,209円/㎡と一致)。クッションフロアは6畳で40,000〜70,000円。カーペットは6畳で50,000〜80,000円、㎡単価3,500〜6,000円。畳表替えは普及品〜中級品で5,500〜12,000円(賃貸の原状回復では普及品グレードが通例)。畳の新調は7,500〜20,000円+処分費。複合フローリングの張替えは6畳で90,000〜120,000円。襖の張替えは業者依頼で3,300〜10,000円(片面3,000〜4,000円+出張費)、建具本体の交換は10,000〜30,000円。柱の補修は10,000〜60,000円(キズは10,000〜30,000円)。エアコンは6〜12畳用の標準工事13,500〜17,000円+本体。ビルトインコンロは工事費込み50,000〜190,000円(80,000〜140,000円が約65%)。インターホンは工事費込み13,000〜140,000円。便器交換は工事費込み150,000〜200,000円が約4割で最頻。
ネットで「ワンルームのハウスクリーニングは2万円前後」と読んだのに、退去時の請求は4万円だった——。この食い違いには、はっきりした理由があります。実は市場が2つあり、記事が書いている相場は、あなたに請求される金額とは別の市場のものだからです。
| どこに頼むか | 1R・1Kの目安 |
|---|---|
| 個人事業者・マッチングサイト経由で自分で手配 | 15,000〜25,000円 |
| 賃貸オーナー向けの専門業者(面積で定額) | 18,000〜32,000円 |
| ㎡単価で計算する法人業者(マンション1,500〜2,000円/㎡) | 30,000〜40,000円 |
| 管理会社の指定業者(実際に精算書に載るのは多くがこれ) | 30,000〜40,000円 |
| 大手フランチャイズ(ダスキン・カジタク・おそうじ本舗等) | 35,000円〜(1LDKでは5〜8万円台も) |
ポイントは、管理会社の指定業者は通常より20〜30%高くなるのが一般的だということです。退去立会いから発注・検品まで管理会社が間に入る以上、そのコストが乗ります。だから「自分で頼めば2万円」でも「請求は3.5万円」になる。これ自体は直ちに不当というわけではありません。
また、㎡単価で計算する業者だと、1R(20㎡前後)で1,600円/㎡なら32,000円。間取りではなく面積で決まるため、同じ「ワンルーム」でも広ければ上がります。本ツールの初期値35,000円は、この「管理会社の指定業者による退去時清掃」を想定した水準です。
クリーニング特約には金額が書いてありますか。「ハウスクリーニング費用は一律40,000円とする」のように具体的な金額と作業範囲が明記され、契約時にきちんと説明を受けて借主が合意していることが、特約が有効とされるための前提です。「クリーニング代は借主負担とする」とだけ書かれた金額のない条項は、有効性が認められにくいとされています。
原状回復のトラブルはクロスが圧倒的に多いので、ここだけは押さえておくと違います。
※クロスは大手メーカーが2024年12月に10〜15%程度値上げしており、それ以前の相場より㎡あたり100〜150円ほど高くなっています。相場は動くため、本表は2026年7月時点の調査に基づく目安です。
「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担とする」といった特約は、実務上よく置かれます。ガイドラインは、通常損耗の補修を借主に負担させる特約について、①特約の必要性があり暴利的でないなどの合理的理由があること、②借主が特約による義務負担の意思表示をしていることなどを要件として挙げています。さらに消費者契約法10条により、借主に一方的に不利な特約は無効とされる余地があります。単に契約書に書いてあるというだけでは、当然に有効とは限りません。
出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」