前回、「重要事項説明は契約の“前”」と学んだ桜井くん。無事に契約が済んで、ホッと一息……のはずが、久保田さんはまだ立ち上がりません。契約の“後”に、もう一枚の書面が待っているのです。宅建業法で35条とセットで問われる37条書面(契約書面)。今日はその急所を。
Dさんが署名を終え、売買契約が無事に成立した。桜井くんは書類をトントンとそろえ、満足げに息をついた。
「ふう……。重要事項説明も契約の前にちゃんとやりましたし、これで全部おしまいですね、先輩!」
「桜井、まだだ」。久保田さんは、もう一種類の書面を机に置いた。「契約が成立したら、遅滞なく“37条書面”を交付する。契約書面とも呼ばれるやつだ」
「35条の重要事項説明書とは、別物なんですか?」
「別物だ。役割がまるで違う。35条は契約の“前”に、買うかどうかを“判断”してもらうための説明。37条は契約の“後”に、決まった中身を“証拠”として書面で残す。前と後、判断と証拠。ここが対(つい)になってる」
桜井くんは、前回の教訓を思い出して得意げに言った。
「あ、じゃあ今回もう一件のE社さん——あの宅建業者のお客さんですよね。プロが相手なら、この37条書面も省略していいんですよね? 35条のときみたいに!」
久保田さんは、ゆっくり首を振った。
「そこが、いちばんの引っかけだ。37条書面は、相手が宅建業者でも省略できない。業者同士の取引でも、契約の両当事者にきちんと交付する。——35条は『プロ相手なら口頭の説明を省ける』。でも37条は逆で、相手がプロでも書面はしっかり渡す。真逆だから、試験はここを突いてくる」
「うっ……。前の知識を、そのまま当てはめちゃダメなんですね」
「そういうことだ。じゃあ桜井、この37条書面、お前が読み上げて“説明”するのか?」
「え……重要事項みたいに、宅建士が説明する……んじゃ?」
「いや。37条書面は“説明”はいらない。交付すればいい。渡すのは業者だから、担当者のお前が渡してもいい。——ただし、一つだけ宅建士の出番がある。37条書面には、宅建士の“記名”が必要だ。昔は押印も要ったが、法改正で記名だけになった。それと、この記名する宅建士は、専任である必要はないし、35条を説明した宅建士と同じ人でなくてもいい」
「説明はいらないけど、記名は要る……。35条は『説明する人』、37条は『名前を書く人』が宅建士、って整理でいいですか?」
「うまいな、それでいい」。久保田さんは、37条書面のひな型を指でなぞった。「中身にも急所があるぞ。桜井、物件の“引渡しの時期”は、書くと思うか?」
「それは……書きますよね。いつ渡すか大事ですし」
「そう、引渡しの時期は必ず書く(必要的記載事項)。じゃあ売買のとき、“移転登記の申請の時期”は? 引渡し時期を書いたなら、登記の時期は省いていいか?」
「引渡しを書けば、どっちか一方でいい……気がします」
「ダメだ。売買では引渡しの時期と、移転登記の申請の時期は“両方”とも必ず書く。『いずれか一方でよい』は、よく出る誤りのパターンだ。ただし——貸借(賃貸借)のときは、登記の時期は書かなくていい。借りるだけで所有権は動かないからな」
桜井くんは、必死に手帳を走らせた。
・37条は業者が相手でも省略できない(35条と真逆!)。
・説明はいらない。でも宅建士の「記名」は要る(押印は不要に)。
・引渡しの時期は必ず。売買は登記申請の時期も“両方”。貸借は登記の時期ナシ。
「よし、あとは中身の分類だ」。久保田さんはホワイトボードに二列で書き出した。「37条書面の記載事項は、『必ず書くもの』と『定めがあれば書くもの』の二種類に分かれる。ここを分けて覚えると、一気にラクになる」
| 必ず書く (必要的記載事項) |
・当事者の氏名・住所 ・宅地建物を特定する表示(所在・地番など) ・代金(交換差金)の額・支払時期・支払方法 ・引渡しの時期 ・移転登記の申請の時期 ・(既存建物なら)建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者双方が確認した事項 |
|---|---|
| 定めがあれば書く (相対的記載事項) |
・代金等以外に授受される金銭(手付金など)の額・目的 ・契約の解除に関する定め ・損害賠償額の予定・違約金に関する定め ・ローン(代金のあっせん)に関する定めと、不成立のときの措置 ・危険負担(天災その他不可抗力による損害の負担)に関する定め ・契約不適合責任、またはその履行に関して講ずべき保証保険契約等の措置に関する定め ・租税その他の公課の負担に関する定め |
「桜井、コツは『金額そのものは必ず書く。でも“もしものときの取り決め”は、決めた場合だけ書く』だ。解除や違約金は、決めていなければ書きようがないだろう? だから“定めがあれば”なんだ」
「なるほど……。決まった数字は必ず、約束事は決めたぶんだけ、ですね」
久保田さんは、桜井くんが両手に持った二枚の書面——35条の重要事項説明書と、37条の契約書面——を見て、少しだけ笑った。
「その二枚が、契約の“前”と“後”を守ってる。順番と役割、もう間違えるなよ」
この物語の“宅建ポイント”
- 35条(重要事項説明)は契約成立“前”に説明、37条書面は契約成立“後”に遅滞なく交付。役割は「判断材料」と「契約内容の証拠」。
- 相手が宅地建物取引業者でも、37条書面の交付は省略できない。業者間取引でも契約の両当事者に交付する(35条の“業者相手なら説明省略可”とは逆なので注意)。
- 37条書面は説明不要。交付すればよく、交付するのは宅建業者。ただし宅地建物取引士の記名が必要(押印は法改正で不要に)。記名する宅建士は専任でなくてもよく、35条を説明した宅建士と同一人でなくてもよい。
- 引渡しの時期は必要的記載事項。売買・交換では、移転登記の申請の時期も必ず記載する(両方)。「いずれか一方でよい」は誤り。貸借では移転登記の時期は記載不要。
- 解除・損害賠償額の予定(違約金)・ローンのあっせん・危険負担・契約不適合責任・租税公課などは、その定めがあるときに記載する(相対的記載事項)。
この論点を、肢で確かめる37条書面は、35条とセットで宅建業法の毎年の得点源。肢別ドリルの「宅建業法 → 37条書面」で、〇×を繰り返して“必ず書く/定めがあれば書く”の仕分けを固めましょう。
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