借りたお金を返す、代金を払う——契約を終わらせる基本の動作が弁済です。ところが「誰が払えるか」「誰に払えば有効か」で、思わぬ落とし穴があります。払った相手が実は無権限だったら? 権利関係の頻出テーマを、桜井くんと押さえましょう。
「先輩、買主さんの代わりに、親戚の方が代金を払いたいと言っているんです。本人じゃないとダメですよね?」
「いや、債務は、債務者本人でなくても“第三者”が弁済できるのが原則だ。ただし条件がある。弁済について“正当な利益”を持たない第三者は、原則として債務者の意思に反してまでは弁済できない」
「正当な利益、というと?」
「たとえば物上保証人や、その物件の担保に利害を持つ人だ。そういう人は自分を守るために弁済する必要があるから、債務者が嫌がっても弁済できる。逆に、ただの親戚のように法律上の利害がない人は、債務者が『払わないでくれ』と言えば、その意思に反して弁済はできないのが原則だ」
「なるほど。じゃあ次に、“受け取る側”です。売主本人だと思って払ったのに、その人が実は代理権のない偽者だったら……もう一回払い直しですか?」
「そこがこの論点のヤマだ。“受領権者としての外観を有する者”に対してした弁済は、弁済者が善意かつ無過失なら、有効になる。相手が『いかにも受け取る権利がありそうな外観』——本人の代理人と名乗る者や、相続人と称する者など——で、こちらが真の受領権者だと信じ、そう信じたことに過失がなければ、その弁済は有効だ。二重に払わなくていい」
「昔の教材で『債権の準占有者』って言葉を見たんですが……」
「同じものだ。民法改正で用語が『受領権者としての外観を有する者』に改められた。中身の考え方は変わっていない。善意無過失がカギ、と押さえろ」
「もし、本当は権限のない人に払っちゃったけど、そのお金が結局、本物の債権者に渡っていたら?」
「その場合は、債権者が現に利益を受けた限度で、その弁済は有効になる。無駄にはならない。——それと桜井、お金の代わりに物で払う話も押さえておけ。本来の給付に代えて別の物を渡して債務を消す“代物弁済”は、債権者との“契約”だから、債権者の承諾が要る。こちらが一方的に『現金の代わりにこの車で』とはできない」
「払うときに、領収書はもらえますよね?」
「もちろんだ。弁済と、受取証書(領収書)の交付は、同時履行の関係にある。『先に払え、領収書は後日』と言われたら、引き換えを主張していい」
桜井くんは、払う側と受け取る側で手帳を分けた。
・受領権者としての外観を有する者への弁済=善意無過失なら有効(旧「債権の準占有者」)。
・無権限者への弁済でも、債権者が利益を受けた限度で有効。
・代物弁済は債権者との契約(承諾が必要)。一方的にはできない。
・弁済と受取証書(領収書)の交付は同時履行。
| 場面 | 結論 |
|---|---|
| 正当な利益のない第三者が、債務者の意思に反して弁済 | 原則できない |
| 正当な利益のある第三者(物上保証人等)の弁済 | 債務者の意思に反してもできる |
| 受領権者としての外観を有する者への弁済 | 弁済者が善意無過失なら有効 |
| 無権限者への弁済(債権者が利益を受けた) | その限度で有効 |
| 代物弁済(本来の給付に代えて別の物) | 債権者との契約(承諾が必要) |
この物語の“宅建ポイント”
- 債務は第三者も弁済できるが、弁済について正当な利益を有しない第三者は、原則として債務者の意思に反して弁済することができない。物上保証人など正当な利益のある者は、債務者の意思に反しても弁済できる。
- 受領権者としての外観を有する者に対してした弁済は、弁済者が善意かつ無過失であれば有効となる。従来「債権の準占有者」と呼ばれたものを、改正民法が「受領権者としての外観を有する者」と改めたもの。
- 受領権者以外の者への弁済でも、債権者がこれによって利益を受けた限度で効力を有する。
- 代物弁済は、本来の給付に代えて他の給付をする旨の債権者との契約であり、債権者の承諾が必要。弁済者が一方的に別の物で弁済することはできない。
- 弁済をする者は、弁済と引換えに受取証書の交付を請求できる(同時履行の関係)。
この論点を、肢で確かめる弁済は「第三者弁済の可否」「受領権者としての外観」を突く権利関係の定番。肢別ドリルの「権利関係 → 弁済」で、〇×を繰り返して善意無過失の要件を固めましょう。
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