契約がないのに、損害賠償の義務が生まれる。それが不法行為です。誰かの権利や利益を、わざと(故意)でも、うっかり(過失)でも傷つけて損害を与えたら、その穴を金銭で埋める。宅建の権利関係で毎年顔を出すこの論点、まずは"一般不法行為"の骨格を、桜井くんと押さえましょう。
「先輩、契約書も何も交わしてない相手に、いきなり損害賠償って発生するんですか?」
「する。それが不法行為だ。契約に基づく責任(債務不履行)とは別物で、契約関係がなくても成立する。ある事業のために他人を使った使用者の責任や、土地の工作物の責任なんかも仲間だが、まずは土台の一般不法行為を固めよう」
「成立するには、何が要るんですか?」
「柱は五つだ。故意または過失があること、他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと、損害が発生したこと、行為と損害の間に因果関係があること、そして加害者に責任能力があること。この五つがそろって、初めて賠償責任だ」
「"故意または過失"……わざとじゃなくても、うっかりでもいいんですね」
「そう。わざと(故意)でも、不注意(過失)でも成立する。逆に、加害者に是非を判断する能力=責任能力がなければ、本人は責任を負わない。幼い子どもなんかがそうだな。それと、他人の不法行為から自分や第三者を守るためやむを得ずした行為(正当防衛)は、責任を負わない。ここは"責任を負うが過失相殺できる"みたいな引っかけで狙われる」
「賠償って、壊した物を直して返す、みたいなことですか?」
「いや、賠償は"金銭"でするのが原則(金銭賠償の原則)だ。それから、不法行為の損害賠償債務は、催促を待たず、損害の発生と同時に遅滞に陥る。だから被害者にとっては、その時から遅延損害金が乗る」
「もし被害者の側にも落ち度があったら?」
「そこが過失相殺だ。被害者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して賠償額を定めることが"できる"。ここが大事で、債務不履行の過失相殺は"しなければならない"(必要的)のに対し、不法行為は"できる"(任意的)で、しかも額を減らす方向にしか働かない。それと、被害者本人だけじゃなく、幼児の親のような"被害者側"の過失も考慮される」
「では、いつまでも請求できるわけじゃないですよね?」
「時効がある。ここは数字を正確にな。損害"及び"加害者を知った時から3年。ただし人の生命または身体を害する不法行為は5年。そして、知らないままでも不法行為の時から20年で時効消滅する。"3年"と"20年"、生命・身体なら"5年"——この入れ替えが毎年の的だ」
桜井くんは、五本柱と数字を手帳に写した。
・わざとでも、うっかりでもOK。責任能力がなければ本人は責任なし。
・正当防衛は責任を負わない("負うが過失相殺"は誤り)。
・賠償は金銭が原則。損害発生と同時に遅滞(遅延損害金が乗る)。
・過失相殺は"できる"(任意的・減額のみ)。被害者側の過失も考慮。
・時効=知った時から3年(生命身体は5年)/行為の時から20年。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 成立要件 | ①故意または過失 ②権利・法律上保護される利益の侵害 ③損害 ④因果関係 ⑤責任能力 |
| 賠償方法 | 金銭賠償が原則 |
| 履行遅滞 | 催告不要。損害の発生と同時に遅滞 |
| 過失相殺 | 裁判所は考慮できる(任意的・減額のみ)。被害者側の過失も考慮 |
| 消滅時効 | 知った時から3年(生命・身体は5年)/不法行為の時から20年 |
この物語の“宅建ポイント”
- 一般不法行為は、故意または過失により他人の権利・法律上保護される利益を侵害し、損害を与えたときに成立する(民法709条)。行為と損害の因果関係が必要で、加害者に責任能力がなければ本人は責任を負わない。契約関係がなくても成立する。
- 賠償は金銭賠償が原則。不法行為の損害賠償債務は、催告を要せず損害の発生と同時に履行遅滞に陥る。
- 過失相殺は、被害者に過失があったとき裁判所が損害賠償額を定めるにあたり考慮できる(任意的で、減額の方向にのみ働く)。債務不履行の過失相殺が必要的であるのと異なる。被害者側(監督者など)の過失も考慮される。
- 他人の不法行為に対しやむを得ずした正当防衛は、不法行為責任を負わない。「責任は負うが過失相殺できる」は誤り。
- 消滅時効は、損害及び加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する不法行為は5年)、不法行為の時から20年。期間の入れ替えは頻出の誤りパターン。
この論点を、肢で確かめる不法行為は「成立要件・過失相殺・3年/20年(生命身体5年)」を入れ替えて問う権利関係の定番。肢別ドリルの「権利関係 → 不法行為」で、〇×を繰り返して骨格と数字を固めましょう。
肢別ドリルで解く →