「本来もらう理由がないのに、手元に来てしまったお金や利益」は、返すのが筋——それを法律にしたのが不当利得です。契約が取り消されたときの後始末にも顔を出す、地味だけど大事な論点。返す範囲が"善意"か"悪意"かで変わるのがヤマです。桜井くんと整理しましょう。
「先輩、この売買、あとから取り消されたんですよね。もう払った代金って、どういう理屈で返してもらうんですか? 契約は初めから無かったことになるんですよね」
「いいところに気づいた。取り消されると契約は初めから無効。すると、受け取った代金には"法律上の原因"がなくなる。それを返す根拠が不当利得だ。契約そのものから返せというより、法律の規定に基づく返還請求——原状回復の問題になる」
「不当利得って、そもそもどういう場面なんですか?」
「法律上の原因なく、他人の財産や労務によって利益を受け、そのために他人に損失を与えた者(受益者)は、その利益を返還する義務を負う。"原因がない"のに"得した"、そのぶん"誰かが損した"——この三点セットだ」
「返すのは、受け取った全部ですか?」
「そこが最大のヤマだ。受益者が"善意"(原因がないと知らなかった)なら、"利益の存する限度"=今も手元に残っている分(現存利益)を返せば足りる。使ってしまって残っていなければ、その分は返さなくていい。ところが"悪意"(原因がないと知っていた)なら、受けた利益に"利息を付けて"返し、なお損害があれば賠償までする。善意と悪意で、こんなに差が出る」
「知っていたかどうかで、天と地ですね……。ちなみに、返すのが遅れたら?」
「不当利得の返還債務には期限の定めがない。だから受益者は、履行の請求を受けた時から遅滞に陥る。善意の受益者でも、請求されたら、その時から遅れの責任だ」
「逆に、返してもらえないケースもあるんですか?」
「ある。二つ覚えろ。まず非債弁済——債務が無いと知りながら弁済した者は、返還を請求できない。無いと分かって払ったなら、後で"返せ"は虫がいい、というわけだ。もう一つが不法原因給付——不法な原因のために給付をした者は、原則としてその給付したものの返還を請求できない。ただし不法な原因が"受益者だけ"にあるときは、返還請求できる」
「自分から不法なことに手を出しておいて"返せ"は通らない、でも悪いのが相手だけなら返せる、と」
「そのとおり。線引きは"どちらに落ち度があるか"だ」
桜井くんは、返す・返さないの分かれ目を手帳に書いた。
・善意の受益者=現存利益(今ある分)まででOK。
・悪意の受益者=利息を付けて返す+なお損害があれば賠償。
・返還債務に期限なし→請求を受けた時から遅滞(善意でも)。
・非債弁済(無いと知って払った)=返還請求できない。
・不法原因給付=原則返還請求できない。受益者だけに不法原因なら請求できる。
・契約の取消し後の代金返還も不当利得(原状回復)の話。
| 場面 | 結論 |
|---|---|
| 善意の受益者 | 現存利益(利益の存する限度)で返還 |
| 悪意の受益者 | 受けた利益に利息を付して返還+なお損害があれば賠償 |
| 返還の遅滞 | 期限の定めがなく、請求を受けた時から遅滞 |
| 非債弁済(無いと知って弁済) | 返還を請求できない |
| 不法原因給付 | 原則、返還を請求できない(不法原因が受益者のみなら請求できる) |
この物語の“宅建ポイント”
- 法律上の原因なく他人の財産・労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした受益者は、その利益を返還する義務を負う。契約が取り消された後の給付の返還も、不当利得(原状回復)の問題となる。
- 善意の受益者は、利益の存する限度(現存利益)で返還すれば足りる。これに対し悪意の受益者は、受けた利益に利息を付して返還し、なお損害があるときは賠償の責任を負う。
- 不当利得の返還債務には期限の定めがなく、受益者は履行の請求を受けた時から遅滞に陥る。善意の受益者でも同様。
- 債務が存在しないことを知りながら弁済した者は、返還を請求できない(非債弁済)。
- 不法な原因のために給付をした者は、原則としてその給付したものの返還を請求できない(不法原因給付)。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存するときは返還請求できる。
この論点を、肢で確かめる不当利得は「善意=現存利益/悪意=利息+賠償」「非債弁済」「不法原因給付」を突く定番。肢別ドリルの「権利関係 → 不当利得」で、〇×を繰り返して返す範囲の線引きを固めましょう。
肢別ドリルで解く →