私たちの仕事も、大工さんの仕事も、どちらも「頼まれてする仕事」。でも民法では委任と請負という別の契約に分かれます。“任せる”のか、“仕上げて渡す”のか。ここを混同すると設問に足をすくわれます。桜井くんの雑談から整理しましょう。
「先輩、うちがお客さんから物件探しを頼まれるのと、大工さんが増築を頼まれるのって、法律的には同じですか?」
「いい着眼だ。似ているが別物だぞ。“事務の処理そのものを任せる”のが委任、“仕事を完成させて渡す”のが請負だ。まず委任からいこう」
「委任って、報酬をもらう契約ですよね?」
「そこが引っかけだ。委任は、事務処理を頼んで相手が承諾すれば成立する。報酬の支払は、成立の要件ではない。ちなみに『仕事の完成に対して報酬を支払う』というのは、委任ではなく請負の定義だ。ここをすり替える肢がよく出る」
「無報酬でも委任は成立する……。任された側は、適当にやってもいいんですか?」
「まさか。受任者は“善良な管理者の注意”をもって事務を処理する義務を負う。しかも報酬の有無を問わず、この善管注意義務は変わらない。『無償なら自分の財産と同じ注意でいい』は誤りだ」
「じゃあ、途中でやめたくなったら?」
「委任は信頼関係の契約だから、各当事者はいつでも解除できる。ただし、相手方に不利な時期に解除したときは、原則として損害を賠償しないといけない。それと、委任は受任者が死亡すれば終了する。相続人が当然に引き継いで続ける、というものじゃない」
「なるほど……。じゃあ請負のほうは?」
「請負は“仕事の完成”が目的だ。報酬は原則として後払い——仕事の目的物の引渡しと同時に払う。先にお金、じゃない」
「完成した物に不具合があったら?」
「そこが最頻出だ。目的物に契約不適合があったら、注文者は“不適合を知った時”から1年以内にその旨を請負人へ通知しないと、原則として担保責任を追及できなくなる。ここで“仕事が終わった日から1年”と書いてあったら誤り。起点は『知った時』だ」
「知った時から1年……。請負人が不具合を隠していたら?」
「請負人が不適合を知りながら告げなかったときは、その1年の期間制限は適用されない。悪質な側を守る理由はないからな。逆に、注文者が渡した材料や、注文者の指図が原因の不適合は、請負人がそれを知らなかったなら責任を負わない」
桜井くんは、二つの契約を並べて手帳に書いた。
・委任は各当事者いつでも解除可(不利な時期は損害賠償)。受任者の死亡で終了。
・請負=仕事の完成が目的。報酬は原則後払い(引渡しと同時)。
・不適合は「知った時から1年以内」に通知。請負人が悪意なら期間制限なし。注文者提供の材料・指図が原因なら請負人は責任なし。
| 委任 | 請負 | |
|---|---|---|
| 目的 | 事務の処理を任せる | 仕事の完成 |
| 報酬 | 成立の要件ではない | 原則後払い(引渡しと同時) |
| 注意義務 | 善管注意義務(有償・無償問わず) | ― |
| 解除 | 各当事者いつでも可(不利な時期は賠償) | 注文者は完成前ならいつでも損害賠償して解除可 |
「桜井、大づかみに言えば『委任は“過程”をきちんと。請負は“結果”を仕上げて渡す”』だ。だから委任は注意義務が主役、請負は完成と不適合が主役になる」
「任せると、仕上げる。役割が違うんですね」
この物語の“宅建ポイント”
- 委任は事務処理の委託と承諾で成立し、報酬の支払は効力要件ではない。「仕事の完成に対し報酬を支払う」は請負の定義であり、委任とは異なる。
- 受任者は、報酬の有無を問わず、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。
- 委任は各当事者がいつでも解除でき、相手方に不利な時期の解除は原則として損害賠償を要する。委任は受任者の死亡によって終了する。
- 請負は仕事の完成を目的とし、報酬は原則として仕事の目的物の引渡しと同時に支払う(後払い)。注文者は請負人が仕事を完成しない間はいつでも損害を賠償して契約を解除できる。
- 請負の目的物に契約不適合があるときは、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ担保責任を追及できない。ただし請負人が不適合を知りながら告げなかったときはこの期間制限が適用されず、注文者提供の材料や注文者の指図による不適合は請負人がそれを知らなければ責任を負わない。
この論点を、肢で確かめる委任・請負は「定義のすり替え」と「不適合の起点」を突く定番。肢別ドリルの「権利関係 → 委任・請負」で、〇×を繰り返して線引きを固めましょう。
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