「全財産を、この人に」——そんな遺言があっても、残された家族には最低限の取り分が法律で守られています。それが遺留分。誰にあって誰にないのか、侵害されたら何を請求できるのか。相続の頻出論点を、桜井くんが受けた相談から見ていきましょう。
「先輩、お客さんのお父さんが『全財産を長男に相続させる』という遺言を残して亡くなって……。次男さんは、もう何ももらえないんでしょうか」
「いや、そうとは限らない。遺留分があるからな。兄弟姉妹以外の相続人——配偶者・子・直系尊属(親など)には、最低限の取り分が保障されている。遺言で『全部を長男に』と書いても、次男の遺留分までは奪えない」
「じゃあ、その遺言は無効になるんですか?」
「そこが引っかけだ。遺留分を侵害する遺言でも、それ自体が“当然に無効”になるわけじゃない。遺言は有効なまま。ただ、侵害された次男は『遺留分侵害額請求』として、侵害された分の“お金”の支払を請求できる。昔は物そのものを取り戻す仕組みだったが、今は金銭の請求に改められた。ここは要注意だ」
「物を取り返すんじゃなくて、お金で、なんですね」
「そうだ。土地の名義がすでに長男に移っていても、次男は金銭で遺留分侵害額を請求できる。——ちなみに桜井、遺留分は誰にでもあると思うか? たとえば亡くなった人の兄弟姉妹は?」
「ご家族なんだから……ありそうです」
「ないんだ。兄弟姉妹には遺留分がない。あるのは配偶者・子・直系尊属まで。ここは何度も出る。取り分の総枠(総体的遺留分)は原則2分の1、直系尊属だけが相続人のときは3分の1だ」
「請求には期限もありますか?」
「ある。相続の開始と“遺留分を侵害する贈与・遺贈があったこと”を知った時から1年で時効消滅。知らなくても相続開始から10年たてば消滅する。放っておくと請求できなくなる」
「逆に、生きているうちに『遺留分は要りません』と放棄することはできますか?」
「できる。ただし条件つきだ。相続開始“前”(被相続人の生前)の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生じる。親などに無理やり書かされるのを防ぐためだ。そして大事なのは——遺留分を放棄しても、相続人でなくなるわけじゃない。相続する権利そのものは残る」
桜井くんは、丁寧に手帳へ書き写した。
・兄弟姉妹には遺留分ナシ。総枠は原則1/2、直系尊属のみなら1/3。
・侵害する遺言も無効ではない → 「遺留分侵害額請求」で“お金”を請求。
・時効:知った時から1年/相続開始から10年。
・生前の放棄は家庭裁判所の許可が必要。放棄しても相続権は失わない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 権利者 | 配偶者・子・直系尊属(兄弟姉妹にはない) |
| 総体的遺留分 | 原則2分の1(直系尊属のみが相続人なら3分の1) |
| 侵害されたら | 遺留分侵害額請求=金銭の支払を請求(遺言は当然無効ではない) |
| 時効 | 知った時から1年/相続開始から10年 |
| 生前の放棄 | 家庭裁判所の許可が必要(放棄しても相続権は残る) |
この物語の“宅建ポイント”
- 遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・直系尊属)に認められる。兄弟姉妹(及びその代襲相続人)には遺留分がない。総体的遺留分は原則2分の1、直系尊属のみが相続人のときは3分の1。
- 遺留分を侵害する遺贈・贈与も、それ自体が当然に無効となるわけではない。遺留分権利者は、受遺者・受贈者に対して遺留分侵害額に相当する「金銭」の支払を請求できる(遺留分侵害額請求権)。
- 遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも消滅する。
- 相続開始前(生前)の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生じる。遺留分を放棄しても、相続人としての地位や相続権を失うわけではない。
この論点を、肢で確かめる遺留分は「権利者・金銭・期限・放棄」を入れ替えて問う定番。肢別ドリルの「権利関係 → 相続」で、〇×を繰り返して兄弟姉妹の扱いと期間を固めましょう。
肢別ドリルで解く →