「この土地、いくらですか?」——不動産の値づけは、勘や相場だけで決めるものではありません。プロは不動産鑑定評価という物差しで価格を求めます。3つの手法と、それぞれの“得意分野”。数字は出てこない、理屈の分野です。桜井くんの素朴な疑問から。
「先輩、鑑定評価って結局、どうやって値段を出すんですか?」
「基本の手法は三つだ。原価法・取引事例比較法・収益還元法。それぞれ求めた試算価格に名前がついていて、原価法は“積算価格”、取引事例比較法は“比準価格”、収益還元法は“収益価格”という」
「三つも……。どれか一つを選ぶんですか?」
「いや。鑑定評価は、原則として複数の手法を併用すべきとされている。一つの物差しだけだと偏るからな。角度を変えて測って、突き合わせるんだ」
「なるほど。三つ、それぞれどんな考え方ですか?」
「原価法は“いま建て直す・造り直すといくらか”から求める。取引事例比較法は“似た物件がいくらで売れたか”から求める。収益還元法は“その不動産がいくら稼ぐか”から求める。作り直す・比べる・稼ぐ、の三つだ」
「取引事例比較法は、近くの成約例を見るんですね。どんな事例でもいいんですか?」
「そこに注意がある。投機的な取引だと認められる事例など、適正さを欠く事例は使ってはいけない。それに、売り急ぎのような特殊な事情がある事例は“事情補正”で直し、時期が違えば“時点修正”で価格時点にそろえる。生の成約価格を、そのまま使うわけじゃない」
「収益還元法は、賃貸物件のためのものですか?」
「主に賃貸用や事業用に有効だが、思い込むな。収益還元法は、自分で使っている“自用の不動産”にも適用できる。もし賃貸したらどれだけ稼ぐか、と想定して求めればいいからだ。『自用だから収益還元法は使えない』は、よく出る誤りだぞ」
「原価法は、建物だけですか?」
「いや、造成地や埋立地のように再調達原価を求められる土地なら、原価法を適用できる。——それと、そもそも鑑定評価には“最有効使用の原則”という大前提がある。その不動産を最も有効に使ったらどうなるか、を基準に価格を考えるんだ」
桜井くんは、三つの手法を手帳に並べた。
・取引事例比較法=比準価格(似た成約と比べる)。事情補正・時点修正。投機的事例は使わない。
・収益還元法=収益価格(いくら稼ぐか)。自用の不動産にも適用できる。
・原則、複数の手法を併用。大前提は「最有効使用」。
| 手法 | 考え方 | 試算価格 |
|---|---|---|
| 原価法 | いま再調達(造り直す)といくらか | 積算価格 |
| 取引事例比較法 | 似た物件の取引事例と比較(補正・修正) | 比準価格 |
| 収益還元法 | その不動産が生む収益から求める | 収益価格 |
「もう一つ、求める価格の種類も押さえておけ。ふつうの評価で求めるのが“正常価格”。ほかに限定価格・特定価格・特殊価格がある。市場性があるのに正常価格の前提となる条件を満たさない場合に求めるのが特定価格だ」
「一つの物差しじゃなく、目的に合わせて価格の“種類”も選ぶんですね」
この物語の“宅建ポイント”
- 価格を求める基本的な手法は、原価法・取引事例比較法・収益還元法。試算価格はそれぞれ積算価格・比準価格・収益価格という。
- 鑑定評価は、原則として複数の手法を併用して行う。
- 取引事例比較法では、事情補正・時点修正を行い、投機的取引と認められる事例など適正さを欠く事例は用いない。
- 収益還元法は賃貸用・事業用に特に有効だが、自用の不動産にも賃貸を想定して適用できる。原価法は造成地・埋立地など再調達原価を求められる土地にも適用できる。
- 求める価格には正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格があり、評価は最有効使用の原則を前提とする。
この論点を、肢で確かめる鑑定評価は「手法と試算価格の呼称」「適用場面」を突く定番。肢別ドリルの「税その他 → 不動産の鑑定評価」で、〇×を繰り返して3手法を固めましょう。
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