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COLUMN / 宅建コラム

引渡しの前か後かで、代金は変わる
― 桜井くんと危険負担

権利関係・売買2026年7月30日

契約はしたけれど、まだ引き渡していない家が、地震や落雷で壊れてしまった——誰も悪くないのに。このとき代金はどうなるのか。それが危険負担です。令和2年施行の民法で大きく変わった論点。分かれ目は「引渡しの前か、後か」。桜井くんと押さえます。

― 契約後・引渡し前に、建物が火事で全焼 ―

「先輩、大変です。売買契約が済んだ甲建物が、まだ引渡し前なのに、近所のもらい火で全焼してしまって……。売主も買主も、何も悪くないんです。買主さんは代金を払うんですか?」

「典型的な危険負担の場面だ。落ち着け。引渡し前に、当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が滅失したときは、買主は代金の支払を拒むことができる

「よかった……。買主さんは払わなくていいんですね」

「“拒める”という言い方が大事だ。令和2年施行の民法では、買主に代金の支払を拒む権利(履行拒絶権)を認める形になった。ここは改正の目玉で、昔は『買主が代金を払わなければならない』という債権者主義だった。古い知識のまま『買主は払う』と答えると、いまはバツだ」

「昔と逆になったんですね……。じゃあ、いつまでこの“拒める”が続くんですか?」

「分かれ目は引渡しだ。目的物の滅失などの危険は、原則として引渡しによって売主から買主に移る。だから、桜井、もし引渡しが済んだ“後”に、双方の責めなく建物が滅失したら——買主は代金を拒めると思うか?」

「引渡し後は……もう買主さんのものだから、拒めない?」

「その通り。引渡し後に当事者双方の責めなく滅失・損傷したときは、買主は代金の支払を拒めない。しかもそれだけじゃない。追完(直せ)も、代金減額も、損害賠償も、契約の解除も、買主はできない。危険が移ったあとは、買主が引き受ける、ということだ」

「引渡しの前と後で、まるっきり逆なんですね」

「そこが全て。引渡し前=買主は代金を拒める。引渡し後=拒めないし、追完・減額・賠償・解除もできない。この一本の線で、ほとんどの肢が切れる」

「ちなみに、どちらかが悪かった場合は? たとえば売主の火の不始末なら」

「それはもう危険負担の話じゃない。“双方の責めに帰することができない事由”というのが危険負担の前提だ。売主に落ち度があれば債務不履行の問題になり、買主は解除や損害賠償を検討できる。まずは“誰も悪くないとき、引渡しの前か後か”で考えろ」

桜井くんは、引渡しを境にした線を手帳に引いた。

― 桜井くんの手帳 ―
・危険負担=“双方の責めなし”で滅失・損傷したときの話。
・引渡し“前”に滅失→買主は代金の支払を拒める(令和2年施行)。
・危険は引渡しで売主→買主に移る。
・引渡し“後”に滅失→買主は拒めない。追完・減額・賠償・解除もできない。
・どちらかに落ち度があるなら、危険負担ではなく債務不履行の問題。
危険負担(双方に責めがなく目的物が滅失・損傷したとき)
引渡し前引渡し後
代金の支払買主は拒める買主は拒めない
追完・代金減額できない
損害賠償・解除(債務不履行の要件次第)できない

「先輩、旧法の“債権者主義”が変わった、っていうのが一番のポイントですね」

「そうだ。『引渡し前に双方無責で滅失したら、買主は代金を拒める』——ここを現行のルールで覚え直せ。あとは引渡しを境に危険が移る、と結びつければ迷わない」

この物語の“宅建ポイント”

  • 特定物の売買で、引渡し前に当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が滅失・損傷したときは、買主は代金の支払を拒むことができる(令和2年施行の民法。旧法の債権者主義から履行拒絶権を認める構成に改正)。
  • 目的物の滅失等の危険は、原則として引渡しによって売主から買主に移転する。
  • 引渡し後に当事者双方の責めなく目的物が滅失・損傷したときは、買主は代金の支払を拒むことができず、追完・代金減額・損害賠償・契約の解除もできない。
  • いずれかの当事者に帰責事由があるときは危険負担ではなく債務不履行の問題となり、解除や損害賠償の可否はその要件で判断する。

この論点を、肢で確かめる危険負担は「引渡しの前か後か/旧法の債権者主義との違い」を突く定番。肢別ドリルの「権利関係 → 売買」で、〇×を繰り返して分かれ目を固めましょう。

肢別ドリルで解く →
※本コラムは学習用の読み物です。危険負担・危険の移転の規律は法改正により変わることがあります。受験・実務にあたっては最新の民法をご確認ください。