質権や抵当権は「担保にしよう」と当事者が“合意”して作る担保です。ところが、合意がなくても法律が勝手に担保を与えてくれるものがある。それが先取特権(さきどりとっけん)。“法定担保物権”の代表で、質権とセットで問われます。桜井くんの勘違いから、その正体を掴みましょう。
「先輩、先取特権も、担保にする“契約”を結んで作るんですよね? 質権みたいに」
「そこが最大の勘違いだ。先取特権は、当事者の合意がなくても、法律上当然に生じる“法定担保物権”だ。一定の債権を持つ人に、法律が自動で優先権を与える。質権や抵当権のように契約で作る“約定担保物権”とは真逆だぞ」
「契約いらずで担保がもらえる……。じゃあ、どんな借金でももらえるんですか?」
「いや、そこは限定がある。たとえば“一般の先取特権”(債務者の総財産にかかる)が認められるのは、共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品の供給、この4つに限られる。ただの貸金債権では、総財産に対する一般の先取特権は生じない。ここは『一般の貸金でも総財産に先取特権がある』という誤りで狙われる」
「なるほど、種類が決まっているんですね。ほかにもあるんですか?」
「一般の先取特権のほかに、“動産”の先取特権と“不動産”の先取特権がある。たとえば不動産の賃貸人は、賃借人がその建物に備え付けた動産の上に先取特権を持つ。家賃を滞納されたとき、備え付けの家具などから優先的に回収できるわけだ」
「担保としての力は、質権と同じですか?」
「優先弁済的効力がある。しかも“物上代位”もできる。目的物が売られたり、貸されたり、火災で滅失して保険金に変わったりしても、その“お金”に対して権利を及ぼせる。ここは抵当権と同じ発想だな」
「便利ですね……。じゃあ、うちが建てた建物の工事代金が未払いなら、うちも自動で先取特権を使える?」
「気持ちは分かるが、そこに落とし穴がある。不動産工事の先取特権は、工事を始める“前”に、その費用の予算額を登記しておかないと、効力を保存できない。『代金が未払いなら当然に、いつでも行使できる』わけじゃない。成立自体は合意不要でも、不動産では“登記”が絡む、と覚えろ」
桜井くんは、質権のメモの隣に書き足した。
・一般の先取特権は4つだけ=共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品供給。
・ほかに動産の先取特権(賃貸人は備付動産に)・不動産の先取特権。
・優先弁済的効力あり。物上代位もできる。
・不動産工事の先取特権は、工事前に予算額を登記しないと効力を保存できない。
| 先取特権 | 質権 | |
|---|---|---|
| 成立の性質 | 法定担保物権(法律上当然に成立・合意不要) | 約定担保物権(契約で成立) |
| 目的物の占有 | 債権者は占有しない | 債権者が占有する |
| 優先弁済 | あり | あり |
| 物上代位 | できる | できる |
| 種類 | 一般(4つ)・動産・不動産 | 動産質・不動産質・権利質 |
この物語の“宅建ポイント”
- 先取特権は、当事者の合意によらず法律上当然に生じる法定担保物権である。契約によって成立する質権・抵当権(約定担保物権)とは性質が異なる。
- 一般の先取特権が認められるのは、共益費用・雇用関係・葬式費用・日用品の供給の4つに限られる。一般の貸金債権について、債務者の総財産に一般の先取特権が生じるわけではない。
- 先取特権には、一般の先取特権のほか、動産の先取特権・不動産の先取特権がある。不動産の賃貸人は、賃借人が建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。
- 先取特権には優先弁済的効力があり、目的物の売却・賃貸・滅失等により債務者が受けるべき金銭に物上代位できる。
- 不動産工事の先取特権は、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければ、その効力を保存できない。成立に合意は不要でも、当然にいつでも行使できるわけではない。
この論点を、肢で確かめる先取特権は「法定か約定か」「一般の先取特権の範囲」を突く定番。肢別ドリルの「権利関係 → 担保物権」で、〇×を繰り返して質権との違いを固めましょう。
肢別ドリルで解く →