お客さんが「思い違い」をしたまま契約してしまった——。そんなとき、あとから契約をほどけるのが錯誤のルールです。ただし「勘違いなら何でも取り消せる」わけではありません。どんな勘違いなら、いつ取り消せるのか。桜井くんの疑問から整理しましょう。
「先輩、買主さんから連絡が。契約のとき勘違いがあったから、取り消したいと。勘違いって、それだけで契約を“無効”にできるんでしたっけ?」
「まず言葉から直そう。錯誤の効果は“無効”じゃなく“取消し”だ。昔の民法では無効だったが、改正で『取り消すことができる』に変わった。ここは試験の狙い目だぞ」
「無効じゃなくて取消し……。で、どんな勘違いでも取り消せるんですか?」
「いや。その錯誤が“重要”なものであることが要る。条文の言い方だと、法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要な勘違いだ。ささいな思い違いでは取り消せない」
「なるほど。じゃあ、買主さんが『この土地は将来値上がりすると思って買った』——これはどうです?」
「それは動機の勘違い(動機の錯誤)だな。動機は、その人の心の中の話だ。だから原則そのままでは取り消せない。その事情が“契約の基礎になっている”と表示されていたときに限って、取り消せる。ただ勝手に思い込んでいただけなら、通らない」
「表示されていたかどうか、がカギなんですね。……あ、でも、その勘違い、買主さんの“うっかり”が原因かもしれなくて」
「大事なところだ。表意者——勘違いした本人に“重大な過失”があったときは、原則として取り消せない。自分の重大な不注意で勘違いしておいて、あとから取り消す、は虫がよすぎるからな」
「じゃあ、重過失があったら一律ダメですか?」
「そこまでは言えない。例外がある。相手方が悪意(勘違いを知っていた)や重過失だったとき、あるいは相手方も同じ勘違いに陥っていたとき(共通錯誤)は、重過失があっても取り消せる。相手も同罪なら、本人の重過失を責める理由が薄いだろう」
「なるほど……。もし取り消せたとして、その土地をもう別の人に転売されていたら?」
「いい質問だ。錯誤による取消しは、善意でかつ過失がない第三者には対抗できない。事情を知らず、落ち度もなく買った人までは巻き込めない。逆に、その第三者が悪意(事情を知っていた)なら、取消しを対抗できる」
桜井くんは、順番に手帳へ書き出した。
・取り消せるのは“重要な”錯誤だけ(目的・社会通念に照らして重要)。
・動機の錯誤は、その事情が「基礎」と表示されていたときに限り取消し可。
・本人に重大な過失→原則取消し不可。例外=相手方が悪意・重過失/共通錯誤。
・善意でかつ過失がない第三者には対抗できない(悪意の第三者には対抗可)。
| 場面 | 取消しの可否 |
|---|---|
| 法律行為の目的・社会通念に照らして重要な錯誤 | 取り消せる(重要でなければ不可) |
| 動機の錯誤で、基礎事情の表示がある | 取り消せる |
| 動機の錯誤で、表示がない(勝手な思い込み) | 取り消せない |
| 表意者に重大な過失がある(原則) | 取り消せない |
| 重過失があっても、相手方が悪意・重過失/共通錯誤 | 取り消せる(例外) |
| 善意でかつ過失がない第三者への対抗 | 対抗できない(悪意の第三者には対抗可) |
「桜井、順番で押さえろ。①重要な錯誤か → ②動機なら表示があったか → ③本人に重過失はないか(あっても例外か) → ④第三者は善意無過失か。この四段で、取り消せるかどうかが決まる」
「勘違い=即取消し、じゃないんですね。段階を踏むんだ」
「そうだ。ほどけるかどうかは、勘違いの“中身”と“落ち度”と“相手の事情”で決まる。ここを分けて考えろ」
この物語の“宅建ポイント”
- 意思表示は、錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。改正により、効果は「無効」から「取消し」に変わった。
- 動機(基礎事情)の錯誤は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り取り消すことができる。単なる思い込みで表示がなければ取り消せない。
- 表意者に重大な過失があったときは、原則として取り消すことができない。ただし、相手方が錯誤を知り若しくは重大な過失により知らなかったとき、又は相手方も同一の錯誤に陥っていたとき(共通錯誤)は、例外的に取り消せる。
- 錯誤による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。事情を知る悪意の第三者には対抗できる。
- 錯誤による取消しを主張できるのは、原則として表意者側である。
この論点を、肢で確かめる錯誤は「無効か取消しか」「動機の錯誤の表示」「重過失の例外」を毎年ひねって問う定番。肢別ドリルの「権利関係 → 意思表示」で、〇×を繰り返して四段の判断を固めましょう。
肢別ドリルで解く →