不動産の売買は、大きなお金が動く重い契約です。だからこそ、判断能力が十分でない人が“ひとりで”不利な契約を結んでしまわないよう、民法は保護のしくみを置いています。それが制限行為能力者の制度。取消しの可否は取引の安全にも関わる、実務直結の論点です。桜井くんの現場から。
「先輩、このお客さん、成年後見を受けているそうです。ご本人と直接、売買契約を結んでいいんでしょうか」
「まず制度の全体像からだ。判断能力の程度に応じて、民法は未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4つの類型を用意している。いずれも、保護者の同意など必要な関与を欠いてした行為は、あとから取り消せるのが基本だ」
「取り消せる、というのは?」
「契約を“なかったこと”にできる、ということだ。特に成年被後見人の場合、その法律行為は原則として取り消せる。判断できる状態のときにした契約でも取り消せるのが特徴だ。ただし、日用品の購入その他“日常生活に関する行為”は取り消せない。日々の買い物まで取り消していたら生活が回らないからな」
桜井くんは手帳に書いた。
・保護者の関与を欠いた行為は取り消せるのが基本。
・成年被後見人の行為は原則取消し可(判断できる状態でも)。
・ただし日用品の購入など日常生活に関する行為は取り消せない。
「それで、今回のように成年被後見人が“自宅”を売るときは、特に注意が要る」と久保田さん。「成年被後見人の“居住用不動産”を処分するには、家庭裁判所の許可が必要だ。売却はもちろん、その建物に抵当権を設定するのも“処分”にあたる。住まいを失うことは本人の生活に決定的だからな」
「自宅を売るには家裁の許可、と。じゃあ、事務所ビルや倉庫を売るときも許可が要りますか?」
「そこが区別のポイントだ。許可が要るのは“居住用”の不動産。オフィスビルや倉庫、あるいは自動車のような動産の処分には、この許可は要らない。“住まいかどうか”で線を引け」
「なるほど。ところで先輩、もしお客さんが『自分は普通に契約できる、後見なんて受けていない』と嘘をついて契約させたら、それでも取り消せるんですか?」
「いい質問だ。そこは保護が引っ込む。制限行為能力者が、自分は行為能力者だと相手に信じさせるために“詐術”を用いたときは、その行為を取り消すことができない。嘘で相手をだました人まで手厚く守る必要はない、という筋だ」
「嘘をついたなら、取消しの盾は使えない、と」
「そうだ。最後に、相手方(取引した業者や個人)の側の備えも触れておく。契約が取り消せる状態のままだと、相手はいつ取り消されるか分からず不安定だ。そこで相手方には“催告権”がある。相当の期間を定めて『取り消すのか、それとも認めるのか、はっきりさせてください』と迫れる。宙ぶらりんを解消する権利だと押さえておけ」
桜井くんは、取消しの可否を表にまとめた。
| 場面 | 取消し |
|---|---|
| 保護者の関与を欠いてした売買などの行為 | できる(原則) |
| 日用品の購入その他日常生活に関する行為 | できない |
| 居住用不動産の処分(家庭裁判所の許可なし) | 許可がなければ有効に処分できない(許可が必要) |
| 非居住用(オフィスビル・倉庫)や動産の処分 | 家裁の許可は不要 |
| 行為能力者だと信じさせる詐術を用いた | できない |
この物語の“宅建ポイント”
- 制限行為能力者には、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4類型がある。保護者の同意など必要な関与を欠いてした行為は、原則として取り消すことができる。
- 成年被後見人の法律行為は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、取り消すことができる。判断できる状態でした行為でも取り消せる。
- 成年被後見人の居住用不動産の処分(売却・賃貸借の解除・抵当権の設定等)には、家庭裁判所の許可が必要。非居住用の不動産や動産の処分には、この許可は不要。
- 制限行為能力者が行為能力者であると信じさせるために詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
- 相手方は、相当の期間を定めて、取り消すか追認するかを確答するよう催告できる(催告権)。
この論点を、肢で確かめる制限行為能力者は「4類型・取消しの可否・居住用不動産の許可・詐術」を組み合わせて問う定番。肢別ドリルの「権利関係 → 制限行為能力者」で、〇×を繰り返して線引きを固めましょう。
肢別ドリルで解く →