賃貸のトラブルで最も多いのが、退去時の敷金をめぐる行き違いです。「いつ返ってくるのか」「大家さんが変わったら誰が返すのか」——順番と当事者を取り違えると答えを間違えます。桜井くんが受けた二つの相談から、敷金の基本を整理しましょう。
「先輩、借主のAさんから『来月出ていくので、その日に敷金を返してほしい。鍵の返却と引き換えで』と言われたんですが……同時でいいんですよね?」
「そこが最初のワナだ。敷金の返還は“明渡し(部屋を返すこと)が先”。賃貸借が終わって建物の返還を受けた後で、未払賃料などを差し引いた残りを返す。賃借人は、明渡し前に敷金を返せとは請求できない。鍵の返却と敷金返還は“同時履行”にはならないんだ」
「え、じゃあ『敷金を返してくれるまで部屋は明け渡さない』は通らない?」
「通らない。先に明け渡す、話はそれから。ここは毎年のように問われる。明渡しがあってはじめて、いくら差し引いて、いくら返すかが確定するからな」
「なるほど……。あ、もう一件。今度この賃貸マンション、オーナーさんが建物ごと別の方に売るそうなんです。敷金って、新しいオーナーさんが引き継ぐんですか?」
「引き継ぐ。建物が譲渡されて“賃貸人たる地位”が新しい所有者に移ると、敷金の関係もそのまま新賃貸人に承継される。しかもこれには賃借人(借主)の承諾は要らない。借主は、退去時に新オーナーへ敷金の返還を求めればいい」
「借主の同意なしで、大家さんの立場ごと移るんですね。何か条件は?」
「一つある。『自分が新しい大家だ』と借主に主張するには、その不動産の所有権移転登記が必要だ。登記を備えないと、新オーナーは借主に対して賃貸人だと言えない。——逆のパターンも押さえておけ。大家ではなく“借主”のほうが替わる場合、つまり賃借権が譲渡されたときは、前の借主が入れた敷金は、原則として新しい借主には承継されない。大家は前の借主に敷金を返す、が原則だ」
「“大家が替わる”と“借主が替わる”で、敷金の行き先が逆なんですね」
「そこを対で覚えろ。混同しやすいから、試験も実務もそこを突いてくる」
桜井くんは、二つの相談を並べて手帳に書いた。
・明渡し後、未払賃料等を差し引いた残りを返す。
・大家(賃貸人たる地位)が替わる→敷金関係も新賃貸人へ承継(借主の承諾不要)。
・ただし新賃貸人が借主に主張するには所有権移転登記が必要。
・借主(賃借権)が替わる→前の借主の敷金は原則、新借主に承継されない。
| 替わるもの | 敷金の扱い |
|---|---|
| 大家が替わる (賃貸人たる地位の移転) | 敷金関係も新賃貸人に承継される(借主の承諾不要/対抗には所有権移転登記が必要) |
| 借主が替わる (賃借権の譲渡) | 旧借主の敷金は原則、新借主に承継されない(大家は旧借主に返す) |
この物語の“宅建ポイント”
- 敷金の返還は、賃貸借の終了後、賃借物の明渡し(返還)を受けた後に、未払賃料等を差し引いた残額について行う。明渡しが先であり、賃借人は明渡し前に敷金の返還を請求できない(同時履行の関係に立たない)。
- 賃貸不動産の所有権が移転して賃貸人たる地位が新所有者に移転すると、敷金の返還に係る債務も新賃貸人に承継される。これに賃借人の承諾は不要。
- 賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するには、その不動産について所有権移転登記が必要である。
- 賃借権が譲渡された場合、旧賃借人が差し入れた敷金に関する権利義務は、原則として新賃借人に承継されない。賃貸人は旧賃借人に敷金を返還すべきものとなる。
この論点を、肢で確かめる敷金は「明渡しが先」と「地位の移転で承継」を突く定番。肢別ドリルの「権利関係 → 賃貸借」で、〇×を繰り返して順番と承継の向きを固めましょう。
肢別ドリルで解く →