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COLUMN / 宅建コラム

貸し借りを、差し引きゼロに
― 桜井くんと相殺

権利関係・相殺2026年7月30日

「私はあなたに100万貸している。あなたも私に100万貸している。なら、差し引きゼロでいいよね?」——この“差し引き”が相殺です。一方的な意思表示でできる便利な制度ですが、できる条件と、できない場合が決まっています。桜井くんと押さえましょう。

― 貸し借りが絡んだ取引の相談 ―

「先輩、うちのお客さんが相手に貸金があって、相手からは代金を請求されているんです。これ、ぶつけて消せませんか?」

「それが相殺だ。二人が互いに“同種の目的”の債務——たとえば金銭と金銭——を負っていて、双方の債務が弁済期にあるとき(相殺適状)、一方的な意思表示で、対当額だけ消せる。相手の同意はいらない」

「一方的にできるんですね。弁済期って、両方とも来てないとダメですか?」

「ここが急所だ。区別しろ。自分が相手に持っている債権(自働債権)は、弁済期が来ていないと相殺に使えない。まだ請求できない債権で相手の債務を消すのは、相手の期限の利益を奪うからな」

「じゃあ、相手が自分に持っている債権(受働債権)のほうは?」

「そっちは緩い。受働債権は、自分の“期限の利益を放棄”すれば、弁済期が来ていなくても相殺できる。自分が早く払うぶんには、自分が損するだけで誰も困らないからだ。自働債権は弁済期が必要/受働債権は期限の利益を放棄できる——ここは対で覚えろ」

「なるほど……。何でもかんでも相殺できるわけじゃない、とも聞きました」

「そのとおり。禁止される場面がある。“悪意による不法行為”に基づく損害賠償の債務や、“人の生命・身体の侵害”による損害賠償の債務を、受働債権として相殺すること——つまり加害者の側から相殺すること——はできない。被害者にはきちんと現実にお金を払え、という趣旨だ」

「加害者が『お前に貸しがあるから、賠償と相殺だ』は通らない、と」

「そうだ。ただし逆はいい。“被害者の側”から、自分の損害賠償債権を自働債権として相殺するのは妨げられない。禁止されるのは加害者側だけ、と向きを間違えるな」

「もう一つ、時効で消えた債権はもう使えませんよね?」

「そこは意外だぞ。時効で消滅した債権でも、“消滅する前に相殺適状にあった”のなら、相殺できる。当事者は『どうせ差し引きで消えている』と思っているのが普通だから、その期待を保護するんだ。ただし相殺適状に一度もなっていなければ、508条の出番はない

桜井くんは、できる・できないを手帳で仕分けた。

― 桜井くんの手帳 ―
・相殺適状=互いに同種の目的の債務/双方が弁済期。一方的意思表示で対当額を消せる。
・自働債権は弁済期が必要。受働債権は期限の利益を放棄すれば相殺できる。
・悪意の不法行為・生命身体侵害の賠償債務を受働債権とする相殺=加害者側からは不可。
・被害者側から自分の賠償債権を自働債権にする相殺はできる。
・時効消滅した債権でも、消滅前に相殺適状にあれば相殺できる。
相殺 できる/できない
場面結論
自働債権が弁済期未到来相殺できない
受働債権が弁済期未到来(期限の利益を放棄)相殺できる
悪意の不法行為・生命身体侵害の賠償債務を受働債権に(加害者側から)相殺できない
被害者が自分の賠償債権を自働債権に相殺できる
時効消滅した債権(消滅前に相殺適状にあった)相殺できる

この物語の“宅建ポイント”

  • 互いに同種の目的の債務を負担し、双方の債務が弁済期にあるとき(相殺適状)、一方的な意思表示で対当額について相殺できる。
  • 自働債権は弁済期にあることが必要。受働債権は、期限の利益を放棄して弁済期前でも相殺できる。
  • 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務や、人の生命・身体の侵害による損害賠償の債務を受働債権とする相殺は、加害者の側からはできない。被害者の側から相殺することは妨げられない。
  • 時効により消滅した債権でも、その消滅以前に相殺適状にあったときは相殺できる。相殺適状に一度もなっていなければ、これによる相殺はできない。

この論点を、肢で確かめる相殺は「自働債権と受働債権の弁済期」「加害者側からの相殺禁止」を突く権利関係の定番。肢別ドリルの「権利関係 → 相殺」で、〇×を繰り返して条件を固めましょう。

肢別ドリルで解く →
※本コラムは学習用の読み物です。相殺に関する規定の細目は法改正や判例により変わることがあります。受験・実務にあたっては最新の民法をご確認ください。