保険、公共交通、通信——世の中には、一枚一枚交渉せず、あらかじめ用意された「約款」でまとめて結ぶ契約があります。この定型約款には、「読んでいなくても合意したとみなす」という強力な仕組みと、それを行き過ぎさせないための“歯止め”があります。桜井くんの素朴な疑問から。
「先輩、契約書のうしろに細かい約款がびっしり。正直、お客さんも僕も全部は読んでませんよね……。読んでない条項まで、契約したことになるんですか?」
「なる場合がある。それが定型約款のルールだ。まず前提として、これは定型取引——ある特定の者が“不特定多数”を相手に行う取引で、内容が画一的なのがお互いにとって合理的なもので使う。保険や乗車券みたいに、一人ひとり条件を練り直さない取引だな」
「なるほど。で、読んでなくても合意になるのは、なぜ?」
「二つのどちらかが揃えば、個別の条項についても合意したものとみなされるんだ。①その定型約款を“契約の内容とする”と合意したとき、または②約款を準備した側が、あらかじめ『この約款を契約の内容とする』と相手方に表示していたとき。この“みなし合意”があるから、一条一条を読み上げなくても契約が回る」
「便利ですけど……準備した側が好き勝手な条項を紛れ込ませたら、危なくないですか?」
「そこに歯止めがある。相手方の権利を制限したり義務を加重したりする条項で、信義則に反して相手方の利益を“一方的に”害するものは、合意しなかったものとみなす。つまり、そういう不当な条項は、みなし合意から外れて効かない。行き過ぎにはブレーキがかかる仕組みだ」
「読んでいないのに全部有効、じゃないんですね。安心しました。……ちなみに、お客さんが『中身を見せて』と言ったら?」
「見せる義務がある。定型約款を準備した側は、相手方から請求があったときは、遅滞なくその約款の内容を示さなければならない。中身を確認する道は、ちゃんと開かれているんだ」
「あとで内容を変えたいときは? いちいち全員と合意し直すんですか?」
「そこも工夫がある。一定の要件を満たせば、定型約款を“変更”することで、個別に合意し直さなくても契約内容を変えられる。不特定多数を相手にする取引だから、一人ずつ結び直すのは現実的じゃないからな。ただし変更には条件があるから、細部は条文を当たれ」
桜井くんは、要点を手帳に書き留めた。
・「約款を契約内容とする合意」or「準備者が事前に表示」→個別条項も合意とみなす。
・ただし、信義則に反し相手方を一方的に害する条項は、合意しなかったとみなす。
・準備者は、請求があれば遅滞なく約款の内容を示す。
・一定の要件を満たせば、約款の変更で契約内容を変えられる。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 約款を契約の内容とする合意がある/準備者が事前に表示していた | 個別条項も合意したとみなす |
| 相手方を一方的に害する不当な条項(信義則違反) | 合意しなかったとみなす(効かない) |
| 相手方から内容表示の請求があった | 準備者は遅滞なく内容を示す |
| 内容を変更したい | 一定の要件を満たせば変更で対応できる |
「桜井、押さえどころは『みなし合意という強い効果』と『不当条項は外すという歯止め』のセットだ。読んでなくても合意になる代わりに、一方的に害する条項は効かない。この“アメとムチ”で公平を保っている」
「全部有効でもなく、全部無効でもなく、バランスなんですね」
「そうだ。大量の取引を回すための仕組みと、弱い立場の相手を守る仕組み。両方が組み込まれている——それが定型約款だ」
この物語の“宅建ポイント”
- 定型取引とは、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引で、内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なものをいう。
- 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、又は定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときは、個別の条項についても合意したものとみなす。
- 相手方の権利を制限し、又は義務を加重する条項であって、信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものは、合意をしなかったものとみなす。
- 定型約款を準備した者は、相手方から請求があったときは、遅滞なくその定型約款の内容を示さなければならない。
- 一定の要件を満たせば、定型約款を変更することにより、個別に合意することなく契約の内容を変更できる。
この論点を、肢で確かめる定型約款は「みなし合意」と「不当条項の除外」を突く定番。肢別ドリルの「権利関係 → 定型約款」で、〇×を繰り返して仕組みを固めましょう。
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