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COLUMN / 宅建コラム

二つの「解除」を、間違えるな
― 新人仲介・桜井くんの手付とクーリング・オフ

宅建業法・手付2026年9月17日

37条書面を無事に交付した桜井くん。ところが数日後、買主のFさんから「事情が変わったので、契約をやめたい」と電話が入った。「手付を放棄すれば解除できますよね?」——桜井くんは即答しかけて、はたと止まる。それとも、これはクーリング・オフの話だったか。似ているようで、まるで別のドアなのです。

― 同じ不動産会社、契約成立の数日後 ―

「先輩、Fさんが解約したいって……。手付を放棄すればいいんですよね?」

「落ち着け、桜井。まず切り分けだ。今のは手付解除か、クーリング・オフか。この二つを混ぜると事故る」

「……同じ『解除』じゃないんですか?」

「別物だ。まず手付解除。買主が手付を交付したときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄して、売主は手付の倍額を『現実に提供』して、契約を解除できる(民法557条)。これが解約手付だ」

「じゃあ、Fさんがもう引っ越しの準備を始めていたら……Fさんはもう解除できない?」

「そこが引っかけだ。基準は“相手方”が履行に着手したか。Fさん自身が動いていても、売主がまだ履行に着手していなければ、Fさんは手付を放棄して解除できる。自分の着手は関係ない、と判例は言っている」

「へえ……。ちなみに、うちが自ら売主のときは、手付っていくらでも取れるんですか?」

「いや。業者が自ら売主で、買主が業者でないときは、手付は代金の10分の2(2割)までしか受け取れない(宅建業法39条)。しかも受け取った手付は解約手付とみなされるし、これに反して買主に不利な特約は無効だ。『手付解除は一切できない』なんて特約は効かない」

「なるほど。で……クーリング・オフとは、どう違うんです?」

「ぜんぜん違う。クーリング・オフは、事務所等“以外”の場所でした買受けの申込みを、頭を冷やして撤回できる制度だ(宅建業法37条の2)。ポイントは三つ。①可否は“買受けの申込みをした場所”で決まる。契約した場所じゃない。②書面で告げられた日から起算して8日以内。③宅地建物の引渡しを受け、かつ代金の全部を支払うと、もうできない」

「Fさんは、うちの喫茶店での商談で申し込んで……まだ引渡しも代金の全部もこれからです」

「なら道が二つある。手付解除なら、売主が履行に着手する前に、手付を放棄する。クーリング・オフなら、告げられた日から8日以内に、書面で通知する。しかもクーリング・オフの解除は書面を発した時に効力が生じる(発信主義)。ポストに入れた時点で効く」

桜井くんは、二つのドアに別々の札を貼るように、手帳に書き分けた。

― 桜井くんの手帳 ―
・手付解除=民法557条。相手方が履行に着手するまで。場所は無関係。
・買主は手付放棄/売主は倍額を「現実に提供」。
・業者が自ら売主なら手付は代金の2割まで・解約手付とみなす(39条)。
・クーリング・オフ=事務所等“以外”の申込み・告知から8日・引渡し&代金全部でアウト・書面/発信主義。

「同じ“やめる”でも、根拠も、期限も、やり方も違う。表で並べてみろ」。久保田さんはホワイトボードに二列を引いた。

手付解除とクーリング・オフの違い
手付解除クーリング・オフ
根拠民法557条(業者売主は宅建業法39条)宅建業法37条の2
使える場面手付を交付した売買全般事務所等以外でした買受けの申込み等
期限・基準相手方が履行に着手するまで書面で告げられた日から起算して8日以内、かつ引渡しを受け代金の全部を支払う前
やり方買主=手付放棄/売主=手付の倍額を現実に提供書面で通知(発した時に効力=発信主義)
場所問わない買受けの申込みをした場所で可否が決まる

「どっちのドアを開けるかで、締切も手続も変わる。お客さんに『解除したい』と言われたら、まず“いつ・どこで・何を”を聞け。それで二つを切り分けるんだ」

桜井くんは受話器を取り直した。もう、二つの解除を一つにまぜたりはしない。

この物語の“宅建ポイント”

  • 解約手付による解除は、相手方が契約の履行に着手するまでできる(民法557条)。買主は手付を放棄し、売主は手付の倍額を現実に提供して解除する。基準は「相手方が着手したか」で、自分が着手していても相手が未着手なら解除できる。
  • 業者が自ら売主で買主が業者でないときは、手付は代金の額の10分の2(2割)まで。受け取った手付は解約手付とみなされ、これに反して買主に不利な特約は無効(宅建業法39条)。
  • クーリング・オフの可否は「買受けの申込みをした場所」で決まる。事務所等以外でした申込みが対象で、契約を締結した場所には引きずられない。
  • クーリング・オフは、書面で告げられた日から起算して8日以内。ただし宅地建物の引渡しを受け、かつ代金の全部を支払うと、もうできない。解除は書面を発した時に効力を生じる(発信主義)。
  • 手付解除とクーリング・オフは別制度。根拠・期限・方法・場所の条件がすべて異なるので、まず「いつ・どこで・何を」で切り分ける。

この論点を、肢で確かめる手付とクーリング・オフは、混同を突く肢が毎年のように並びます。肢別ドリルの「宅建業法」で、〇×を繰り返して“どちらの解除か”を一瞬で見分ける目を作りましょう。

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※本コラムは学習用の読み物です。手付・クーリング・オフの要件や手続は法改正により変わることがあります。受験・実務にあたっては最新の民法・宅地建物取引業法をご確認ください。