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COLUMN / 宅建コラム

ただであげる、の約束
― 桜井くんと贈与の総論

権利関係・贈与2026年8月10日

「これ、ただであげるよ」——その一言に、法律はどこまで縛りをかけるのか。無償で財産を渡す贈与は、口約束でも成立する一方、"書面がないなら撤回できる"という独特のルールを持ちます。宅建で問われる贈与の骨格を、桜井くんと押さえましょう。

― 「息子に土地をあげたい」という相談 ―

「先輩、お客さんが『息子に土地をただであげたい』と。これって、契約書がないと成立しないんですか?」

「いや、贈与は"諾成契約"だ。一方が"無償で財産を与える"意思を表示し、相手方が"受諾"すれば、それだけで効力が生じる。書面は成立の要件じゃない。口約束でも、贈与そのものは成立する」

「口約束でも成立……。じゃあ、あとで気が変わったら、もう撤回できないんですか?」

「そこが贈与のいちばんの特徴だ。書面によらない贈与は、各当事者が解除(撤回)できる。軽い気持ちの口約束を、あとで引っ込める余地を残しているんだ。ただし、"履行の終わった部分"については解除できない

「"履行が終わった"というのは、どういう状態ですか?」

不動産なら、引渡しをするか、移転登記をすれば、履行が終わったものと扱われる。だから、口約束のうちは撤回できても、土地を引き渡すか、登記を移してしまえば、もう『やっぱりやめた』は通らない。逆に言えば、渡す前・登記前なら、書面がないかぎり撤回できる」

「では、きちんと書面にしていたら?」

書面による贈与は、履行前であっても解除できない。書面にした時点で贈与の意思がはっきりしているから、軽率さを理由に引っ込めることはできない、というわけだ。"書面あり=履行前でも撤回不可"、"書面なし=履行が終わるまでは撤回可"——この対で覚えろ」

「あげた土地に、あとから欠陥が見つかったら、贈与した側はどこまで責任を負うんですか?」

「無償であげているから、責任は原則として軽い。贈与者は、目的物(や権利)を、"贈与の目的として特定した時の状態で"引き渡し、または移転することを約したものと"推定"される。ありのままの状態で渡すと約束したと推定される、というイメージだ。売買の売主のように重い担保責任を当然に負うわけではない」

「ただであげるぶん、責任も控えめ、なんですね」

「そういう建て付けだ。なお、"見返り"の負担を付けた負担付贈与や、死んだら渡す死因贈与は、別のルールが乗ってくる。今日はまず、贈与の"素の形"を固めておけ」

桜井くんは、撤回できる・できないの分かれ目を手帳に書いた。

― 桜井くんの手帳 ―
・贈与=無償で与える意思+受諾で成立(諾成契約)。書面は成立要件でない。
・書面によらない贈与=各当事者が解除(撤回)できる。
・でも"履行の終わった部分"は解除できない。
・不動産は引渡し or 移転登記で履行が終わったと扱う。
・書面による贈与=履行前でも解除できない。
・贈与者は"特定した時の状態で"引き渡す/移転すると推定(担保責任は原則軽い)。
・負担付贈与・死因贈与は別ルール(今回は素の贈与)。
贈与 解除(撤回)できる/できない
場面解除(撤回)
書面によらない贈与(履行前)できる
書面によらない贈与(履行の終わった部分)できない
不動産の引渡し/移転登記があったできない(履行が終わったと扱う)
書面による贈与(履行前でも)できない
贈与者の担保責任
原則内容
推定贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し・移転すると約したものと推定(責任は原則軽い)

この物語の“宅建ポイント”

  • 贈与は、一方が無償で財産を与える意思を表示し、相手方が受諾することで効力を生じる諾成契約。書面は成立の要件ではなく、口頭でも贈与自体は成立する。
  • 書面によらない贈与は、各当事者が解除(撤回)できる。ただし、履行の終わった部分については解除できない。不動産の場合は、引渡しまたは移転登記があれば履行が終わったものと扱われる。
  • 書面による贈与は、履行前であっても解除できない。
  • 贈与者は、贈与の目的である物または権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、または移転することを約したものと推定される。無償ゆえ、担保責任は原則として軽い。

この論点を、肢で確かめる贈与は「諾成契約・書面によらない贈与の解除・履行の終わった部分・贈与者の担保責任」を突く権利関係の定番。肢別ドリルの「権利関係 → 贈与」で、〇×を繰り返して撤回の線引きを固めましょう。

肢別ドリルで解く →
※本コラムは学習用の読み物です。負担付贈与・死因贈与などは別の論点として扱っています。贈与の規定は法改正により変わることがあります。受験・実務にあたっては最新の民法をご確認ください。