宅建・不動産資格チャンネル

不動産の実務ガイド / FOR PROS

宅建業者のマネロン対策と、
「リスク評価書」の書き方

犯罪収益移転防止法(犯収法)で宅建業者に課される義務は、たった3つです。そして国交省が令和8年度中の作成完了を求めている「リスク評価書」も、全6ページのうち自分で考えて書くのは実質2ページ分だけ。何が要求されているのかを、実務目線で整理しました。

✓ 出典=国土交通省・国家公安委員会✓ 様式はすべて無料配布✓ 宅建・不動産チャンネル制作

なぜ不動産が狙われるのか

国の「犯罪収益移転危険度調査書」は、不動産の危険度をこう説明しています。財産的価値が高く、多額の現金と交換できる。しかも利用価値や利用方法によって評価が大きく変わるため、通常の価格に上乗せして払うといった方法で、犯罪収益を容易に移転できる。さらに、真の購入者と異なる名義や架空名義で買えば、資金の出どころと帰属先を不透明にできる。

だから宅建業者は犯収法で「特定事業者」に指定され、入口でのチェック役を任されています。対象は宅建業だけでなく49業種。根拠法は平成19年公布、平成20年に全面施行されました。

用語かみ砕くと
マネー・ローンダリング犯罪で得たお金を不動産などに換えて、出どころと本当の持ち主をわからなくすること。
テロ資金供与テロの実行やテロ組織の活動に使うお金を集めたり渡したりすること。
拡散金融大量破壊兵器の開発に関わる相手にお金を回すこと。

義務は3つだけ

その一
取引時確認
お客様が誰なのかを書類で確かめる。いわゆる本人確認です。
その二
記録の保存
確認した内容と取引の記録を、決められた期間しまっておく。
その三
疑わしい取引の届出
怪しいと思ったら、行政庁を経由してJAFIC(警察庁)に届け出る。

この3つに加えて、令和8年度中の作成が求められているのがリスク評価書です(後述)。

対象は「売買」だけ ── 賃貸は対象外

取引時確認が必要になるのは特定取引のときだけです。宅建業者にとっての特定取引は、次のとおり。

取引の種類取引時確認ひとこと
宅地・建物の売買契約の締結必要自ら売主・自ら買主のケース。
売買の代理必要代理を引き受けた時点で対象。
売買の媒介必要仲介はここ。売主側・買主側の別を問いません。
賃貸の媒介・代理・管理対象外賃貸は犯収法上の特定取引ではありません。

覚え方は「売買にだけ効く」。賃貸仲介がメインの月は、取引時確認の出番がない月もあり得ます。ただし賃貸だからといって、怪しさに気づく感度まで下げる必要はありません。

何を確認するのか

相手が個人か法人か、通常の取引かハイリスク取引かで、確認する項目が変わります。

確認項目個人のお客様法人のお客様
本人特定事項氏名・住居・生年月日名称・本店等の所在地
+ 来社した担当者個人の本人特定事項
取引を行う目的自宅として住む/投資用/事業用など。申告してもらえば足ります。
職業/事業内容職業(申告でOK)事業内容(定款・登記事項証明書等で確認)
実質的支配者その会社を実際に支配している自然人(原則25%超の議決権保有者など)。申告により確認。
資産・収入の状況ハイリスク取引で、かつ200万円超の財産の移転を伴う場合にのみ必要。

ハイリスク取引とは

なりすましの疑いがある、または過去の確認事項を偽っていた疑いがある取引。
イラン・北朝鮮など、対策に重大な欠陥があるとされる国・地域に居住/所在する相手との取引。
外国PEPs(外国の元首、政府・中央銀行等で重要な地位にある者・あった者、およびその家族)との取引。

この場合は通常より厳格な方法で確認します。追加の本人確認書類を求める、購入資金の原資を確認する、といった対応です。

令和9年4月、本人確認のやり方が変わる

ここが一番の実務インパクトです。犯収法施行規則の改正により、令和9年(2027年)4月から本人確認の方法が厳格化されます。お客様に案内する書類の種類そのものが変わるため、施行前に受付フローと案内文の見直しが必要になります。

改正の具体的な中身は、施行までに公表される国土交通省・警察庁の周知資料で必ず最終確認してください。

記録は7年

記録の種類いつから数えて保存期間
確認記録取引関係が終了した日 等7年間
取引記録取引が行われた日7年間

確認に使った書類の写しも一緒に保存します。行政の立入検査で最初に見られるのがここです。宅建業法の帳簿(5年)や従業者名簿(10年)とは別の期間なので、混同しないよう注意してください。

「疑わしい」と思ったら

国交省の考え方はシンプルです。チェックリストに一つでも該当すれば届出。そして該当するか明確でなく、判断に迷う場合も届出。迷ったら出す、が正解です。

実際、どれくらい届出があるのか

国交省の記載例によれば、令和4年から令和6年までの3年間で、宅建業者による疑わしい取引の届出は全国で54件。内訳の上位はこうなっています。

届出の類型件数割合
多額の現金21件38.9%
不自然な態様・態度等5件9.3%
短期間・総額多額現金4件7.4%
暴力団員等3件5.6%
短期間・多数取引2件3.7%

3年で54件。圧倒的に「多額の現金」です。まずここに感度を持つのが実務的といえます。

兆候チェックリスト(代表例)

取引価額に見合わない多額の現金で支払おうとする。
本人確認書類の提示を渋る・拒む。住所や連絡先の説明があいまい。
合理的な理由がないのに他人名義・架空名義で契約・決済しようとする。
短期間での転売を繰り返す。相場と大きくかけ離れた価格で売買する。
物件そのものへの関心が薄く、取引を成立させること自体を急いでいる。
資金の出どころの説明が二転三転する、または説明を避ける。
反社会的勢力や、資産凍結等の措置の対象者と関係がうかがわれる

これは代表例です。実際の届出判断は、必ず国交省の参考事例集チェックリストの原本に当たってください(リンク集)。

絶対にやってはいけない ── 内報の禁止。届出をしたこと、またはこれから届け出ようとしていることを、お客様やその関係者に漏らしてはいけません。法律違反です。「一応届けておきますね」は禁句。社内でも共有範囲を絞ってください。

リスク評価書は、どこがコピペで済むか

自社の事業規模や取引形態に照らして、どこにマネロンのリスクがあるかを特定・評価し、下げるための措置を書いた文書です。国交省は令和8年度中に全宅建業者が作成し終えることを目標にしています。

身構える必要はありません。国交省がひな形・様式(Word)・記載例(Word)・総括表(Excel)をすべて無料で公開しています。全6ページのうち、第1章と第3章はほぼ全社共通。自分で調べて書くのは第2章だけです。

全6ページの構成

1
国のリスク評価結果等ほぼコピペ
「犯罪収益移転危険度調査書(令和7年12月版)」からの転記です。不動産の危険度の特徴、届出の最近の傾向、悪用事例、経済制裁対象者、危険度の評価の5項目。全業者共通なので、記載例の文章をほぼそのまま使えます。
2
当社が直面するリスクの特定・分析・評価ここが本番
(1) 営業エリアと地域特性・事業環境、(2) 疑わしい取引の届出の分析結果(直近5年の件数を表に)、(3) それらを踏まえたリスク評価。唯一、自社で調べて書く章です。
3
取引リスクに応じた当社の対応方針選ぶだけ
リスク低減措置。記載例に9本の例文が並んでいるので、自社に当てはまるものを選んで採用する形で足ります。

第2章で、実際に何を書かされるか

正直にお伝えすると、手が止まるのは「営業エリアと地域特性」です。記載例は、次のような内容を求めています。

店舗が所在する自治体名と、主な営業エリア。
地域人口、最も多い年齢層、平均取引価格。
エリア内に立地する工場・大学などの特徴。
年間観光客数、在留外国人の主な国籍と概数
暴力団排除条例で事務所開設が禁止されているエリアの有無。
県警等がマネロン事案を公表していれば、その内容。

自治体や都道府県警が公表している統計を当たる作業になります。ここだけは時間を見ておいてください。逆にいえば、ここさえ埋めれば評価書は完成します。

リスク評価総括表(Excel)は選択式

第2章(3)が参照するのが、別ファイルのExcel「リスク評価総括表」です。3シートあり、各行について取扱の有無を○×で選び、固有リスクを「極高/高/中/小」で格付けし、低減措置(謝絶/慎重な確認)を選ぶという作りになっています。考える軸はこの4つだけです。

シート評価する軸並んでいる項目
総括表①商品・サービス/取引形態売買・売買の代理・売買の媒介 × 対面/非対面/現金/金融機関を通じた取引/多額取引/非居住者・外国籍の顧客との取引
総括表②顧客属性反社会的勢力、国際テロリスト、一見顧客、年金受給者、給与所得者、自営業者、無職・主婦・学生、上場/非上場/外国企業、公的機関、経済制裁対象者、外国PEPs、疑わしい取引該当先 など
総括表③国・地域全世界の国名一覧+中国東北3省・英領バージン諸島、FATFグレイリスト/ブラックリスト掲載国

国が「危険度が高い」としている類型。格付けの出発点になります。取引形態では非対面取引・現金取引・外国との取引。国・地域では北朝鮮・イラン・ミャンマー。顧客属性では反社会的勢力、国際テロリスト、非居住者、外国PEPs、実質的支配者が不透明な法人等

なお、FATFのグレイリスト・ブラックリストは毎年2月・6月・10月頃のFATF会合の結果を受けて財務省が更新します。評価書は作って終わりではなく、リストの更新や営業エリアの拡大といった変化があったときに見直す前提の文書です。