両当事者が損害の賠償につき特段の合意をしていない場合において、債務の不履行によって生ずる損害賠償請求権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 債権者は、債務の不履行によって通常生ずべき損害のうち、契約締結当時、両当事者がその損害発生を予見していたものに限り、賠償請求できる。
- 債権者は、特別の事情によって生じた損害のうち、契約締結当時、両当事者がその事情を予見していたものに限り、賠償請求できる。
- 債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始する。
- 債務の不履行に関して債権者に過失があったときでも、債務者から過失相殺する旨の主張がなければ、裁判所は、損害賠償の責任及びその額を定めるに当たり、債権者の過失を考慮することはできない。
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誤り。債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする(民法416条1項)。通常損害については当事者の予見の有無を問わず賠償の対象となるのであって、予見していたものに限られるわけではない。予見が問題となるのは同条2項の特別損害についてである。
誤り。特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者はその賠償を請求することができる(民法416条2項)。現に予見していた場合に限られるのではなく、予見すべきであった(予見可能であった)場合にも賠償を請求できる。なお、旧法は「当事者が予見し、又は予見することができたとき」と規定していたが、現行法は規範的な評価であることを明確にするため「予見すべきであったとき」と改められた。
正しい。判例は、債務の履行不能によって生ずる損害賠償請求権は本来の債務が姿を変えたものにほかならないから、その消滅時効は本来の債務の履行を請求し得る時から進行するとしている(最判昭35.11.1)。履行不能となった時から新たに時効が進行するわけではない。現行民法のもとでも、客観的起算点である「権利を行使することができる時」(166条1項2号)は本来の債務の履行を請求し得る時と解される。本肢が本問の正解である。
誤り。債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める(民法418条)。判例は、債務不履行における過失相殺は、債務者の主張がなくても、債権者の過失を認めるべき事実が訴訟上現れていれば裁判所が職権ですることができるとしている。なお、不法行為の過失相殺(722条2項)が「損害の額を定めるに当たり」であるのに対し、債務不履行では「責任及びその額」とされ、責任そのものを否定することもできる点が異なる。
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